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あしあと

    幻の花500年ぶり里帰り

    • [更新日:
    • ID:904

    阿久比からゆかりの地、鳥取・倉吉へ

    室町時代に伯耆(ほうき)の国(現在の鳥取県)から草木の下芳池に移植されたと伝わる「花かつみ」が、ふるさとの鳥取県倉吉市に“里帰り”することになり、その株分けのセレモニーが6月13日、花かつみ園で行われました。

    倉吉市の福井教育長に花かつみの鉢を手渡す町長

    倉吉市の福井教育長に花かつみの鉢を手渡す町長

    十数年前、花かつみ園で「五百年前に鳥取県・伯耆(ほうき)の国から」の看板ほうきを見て衝撃を受けたという高根台在住の前田勝照さん。

    阿久比町では、アヤメ科の多年草で、6月の上旬から中旬にかけて濃紫の花を咲かせる野花菖蒲(ノハナショウブ)を「花かつみ」と呼んでいます。松尾芭蕉が『奥の細道』の中で、捜し求めても見つからなかったことから“幻の花”とも言われます。

     

    草木地区の花かつみ園に咲く「花かつみ」

    草木地区の花かつみ園に咲く「花かつみ」

    鳥取県大山町出身の前田さんは、「東海鳥取県人会」に所属しています。自分のふるさとから花かつみが伝わったことを知り、会報「因幡と伯耆」などを通じて、“幻の花”が現在も鳥取県内で自生しているかを探してきました。

    『花かつみ物語』(近藤英道著、平成元年阿久比町発行)では、草木竹林城主一色詮徳(いっしきとしのり)と伯耆の守護の娘鶴姫(つるひめ)との悲しい恋物語が描かれています。若き詮徳は悪党らに襲われそうになった鶴姫を助けます。お礼にと差し出した花が「花かつみ」でした。2人が最初に出会った場所として、伯耆国府(ほうきこくふ)のあった、現在の倉吉市が紹介されています。2人は京の都で再会をして結ばれますが、詮徳は主君に忠誠を誓い、鶴姫と分かれ草木竹林城で暮らすことになります。“戦乱の世”が2人の愛を引き裂きました。お互いの気持ちは離れていても変わることはありません。鶴姫は詮徳に会いたい一心で、草木の地にたどり着きます。しかし、詮徳に会えた直後、鶴姫は戦乱に巻き込まれた疲れで息絶えます。詮徳にみとられた鶴姫の左手には、2人の思い出の花「花かつみ」の種がにぎられていました。詮徳は芳池のほとりに種を蒔きましたが、再び主君に従い竹林城を去ったため、花かつみの花を一度も見ることがなかったと描かれています。

    調査を進めていくうちに『花かつみ物語』に出てきた「鳥取県倉吉市」で、以前「花かつみ」らしき花が自生していたことが分かりました。しかし、現在では自生していないことも判明しました。

    「伯耆の国で見つからなかったら、里帰りさせましょう」。花かつみ保存会の協力も加わりました。

    昨年8月、東海鳥取県人会から阿久比町へ「両市町の交流」の呼び掛けがありました。今年2月には倉吉市から阿久比町へ正式に「ぜひ里帰りを」との打診があり、これを受けて今回の株分けが実現することになりました。

    「花かつみ里帰り式」では、阿久比町長から福井伸一郎倉吉市教育長へ、皆川德成花かつみ保存会長から可世木博東海鳥取県人会長へ、花かつみの「株」を贈呈しました。

    「本来なら門外不出の“お止め花”であるけれど、もともとは伯耆の国から嫁いできた花。在所からのお願いなら名誉なことです。花が取り持つ縁で倉吉市と交流を深めたい」と皆川会長。「五百年前の話が、今ここによみがえりました。〈花かつみ えにしをたどりて 里帰る〉まさにロマンです」と福井教育長はあいさつされました。

    株分けする「花かつみ」は、倉吉市内の鶴姫ゆかりの寺「山名寺」と「長谷寺」の2カ所に移植されます。今回の里帰りを実現させた前田さんも式に出席して、「感無量です。夢がかないました。阿久比町も鳥取県も私のふるさとです。多くの関係者に感謝します」と目を細めていました。

    広報あぐい2010年7月1日号から

     

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