広報 あぐい
2008.07.01
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『トマト』ってね

〜みんなの童話〜

 

「うーん、おいしい」
「まぁ、美代ちゃんのにこにこ顔ったら。ほんとにケチャップがすきなのね」
おかあさんの笑みがこぼれます。
「うん、わたしは、オムライスにかけて食べるケチャップが、いちばんすきなの」
「ほらっ、口についているわよ。美代ちゃんたら…」
「小学校2年生になってもでしょ」
それでもわたしの顔は、にやけたままでした。
「だからね。ケチャップいっぱいかけたいの」
「それじゃあ、家でもケチャップを作ってみましょうか」
「えっほんと?家でもつくれるの。じゃあ作ってみたいなぁ」
わたしは、うれしくなって、手をたたきました。
なん日かすると、おかあさんは、小さな苗を買ってきました。
「はい、トマト」
「これが?トマトなの」
「そうよ。黒いビニールを取って庭に植えるのよ。小さな苗だけど、おおきくなったら、トマトの実でいっぱいになるわ」
「ふーん。トマトってちぢれた葉で、青くさいにおいがするね。これがケチャップにねぇ」
わたしは、この小さな苗がどうなっていくんだろうと、わくわくドキドキしました。
そして、「早くおおきくなって、ケチャップになーれ」と、おまじないのように、毎朝、水をかけました。
庭に植えたトマトの苗は、すくすく育ち、すぐにわたしの背に追いつきました。
ところが、雨が続いたある日。
「おかあさん、たいへんだよ。トマトの葉っぱが白い粉でいっぱい」
苗は、葉も茎も白い粉をふったようになり、しおれています。あの青くさいニオイもしません。
「毎日雨がふるから。困ったわね。水の当たりすぎかしら。囲ってみると、頭をあげてくれるのかな」
おかあさんは、半なきのわたしと元気のない苗に、やさしく声をかけて、屋根と囲いを作ってくれました。
そしてなん日かすぎました。学校から走ってかえったわたしは、
「おかあさん、先生がね。トマトは、アンデスの山で生まれたって」
「へぇ。アンデスで?」
「アンデスってね、雨のあまりふらない山なの。だからトマトは水がきらいなんだって」
「そう、やっぱり。だからしおれちゃったのね」
「それからね。朝と昼の温度の差が大きいと、トマトの実がまっ赤になるって」
「まぁ、学校の先生から聞けてよかったわね」
ちょっぴりわかると、おかあさんもわたしも、トマトのことをもっともっと知りたくなりました。
囲いをつくってから、じっと待ちました。苗は少し頭をあげて、元気をもりかえしはじめました。
晴れた日が続くと、すっかりいきおいを増して、囲いを取りはらうころには、もう葉がしっかり茂っていました。
「あっ、ちっちゃいトマトが、いっぱいなったねぇ」
わたしは、うれしくなってウフウフ、鼻息をならしました。
「ほらなっているよ。はやく赤くなるといいね」
庭を見下ろしているおかあさんに、うるんだ目で言いました。
日のひかりがさんさんと照り、セミがジージーと鳴き始めました。
トマトは、枝もたれ下がるほど大きく、まっ赤になりました。
「おかあさん、カゴにいっぱいだねぇ。取れたては、きらきらひかっておいしそう」
手にとったトマトは、朝のしずくにきらめいていました。
台所では、大きなナベと野菜たちが、ケチャップになるんだって、首を長くして待っています。
すると、野菜たちの歌が聞こえてきました。

トマトって
かわいいなまえだね
うえからよんでも
トマト
したからよんでも
トマト

「うーん。トマトって、そのままでもおいしいね」
わたしは、取り立てのトマトを口いっぱいにほおばりました。

しろやま会員  かど まさこ



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