広報 あぐい
2008.07.01
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あぐいぶらり旅 〜境界線を行く (7)〜

シリーズ 阿久比を歩く 79

 



愛知用水幹線水路



カエルの声が聞こえた草木池


前回まで進んだ多賀神社から歩き始める。県道西尾知多線を少し行くと知多市との境界の看板にぶつかる。左手に曲がり、愛知用水幹線水路沿いを進む。

水路では水の流れとは逆にアメンボが水面を飛び跳ねる。「アメンボは何であんなことができるんだろうね」。「体重が軽いからだと思いますよ」。友人のおバカ解答に笑う。

草木池周辺をぐるりと回る。静かなため池だが、時折カエルが「ウオーン。ウオーン」と、どすのきいた鳴き声を響かせる。小石を1つ池に投げてみる。鳴き声が止まる。池に背を向けて歩き出すと、「ウッオーン。ウッオーン」。先ほどよりも大きな声でカエルが鳴き出す。「あの鳴き声、怒ってるぞ」。振り向かずに先を急ぐ。

しばらく用水路沿いを進み、県道金沢線に出る。花かつみ園の公開(6月4日〜18日)を知らせるのぼりが目立つ。「幻の花はなかつみ」の旗が風に揺れる。東へ少し行った場所に花かつみ園はある。一休みすることにする。

室町時代に伯耆(ほうき)の国(鳥取県西部)から草木地区の下芳池に移植されたと伝えられるノハナショウブを阿久比町では「花かつみ」と呼ぶ。永禄3(1560)年桶狭間の合戦の際に、徳川家康の生母於大の方が、坂部城で「花かつみ」を「勝つ」という言葉にあやかり、仏前にささげて家康の武運長久を願ったという伝説も残る。何度も絶滅の危機に見まわれたが、現在は地区の「花かつみ保存会」により大切に守られている。

小ぶりな花だが鮮やかな紫色は美しい。ぼんやりと花を眺め、汗が引いたところで腰を上げる。

境界に戻る。阿久比町、知多市、常滑市の3つの地点が交差する場所を通過する。草木工業団地の南側を歩く。工場の従業員の車が駐車場に止められている。数の多さに驚く。

3カ月前から始めた、「境界線を行く」のシリーズもついにゴールが見えてきた。スタートした地点まであとわずか。季節は春から初夏へ様変わり。珍道中での出来事が走馬灯のように浮かぶ。

「いろいろあったよね。お疲れさま」と友人をねぎらう。「1番の思い出はアメンボの素晴らしい水面飛びを見たことですね」。「えっ。それ今日の出来事じゃなかった?」。その瞬間ゴールを迎えた。



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