広報 あぐい
2010.09.01
バックナンバーHOMEPDF版 ダウンロードページへ

縁日のふうりん

〜みんなの童話〜

 

縁日のふうりん
「おじいちゃん。きたよ」
「おぉ、よしおか。よくきたな」
 縁側にいたじいちゃんが、ふりかえって笑った。
 じいちゃんは、よしおが来るのを心待ちにしていた。
「ほら。夏休みにかいたよ」
「ほぅわしだな。ようかけとる」
 よしおは、じいちゃんと行った夏まつりの絵を見せた。
「ばあさんにもふうりんの絵を見
せてやれ」
 よしおは、うなずくとぶつだんに、縁日のふうりんを持ったじいちゃんの絵を置いた。そのまま、飾ってあるばあちゃんの写真をしばらく見つめた。
「ばあさんは、ふうりんのリーンとなる音が好きだった」
 軒につるされたふうりんを見てじいちゃんの目が、うるんでいた。
 よしおが縁側にもどると、庭にまいた水にさそわれて、すず風が吹いてきた。風は、ふうりんをゆらしてリーン・リーンとすんだ音を鳴らした。
「もうすぐばあさんにあえるぞ」
「えっ、あえるって」
「あぁ、いますずしい風がふいたじゃろ。…『もうすぐ秋がきますよ』ってな」
 じいちゃんは、ばあちゃんみたいな声と言い方で言った。
「へぇー、ばあちゃんが風で話をするの」
「ふうりんの音を聞くとな。よしおにも言ったぞ。『彼岸(ひがん)にはあいに行きます』と。聞こえんかったか」
 じいちゃんには、ばあちゃんの声が聞こえるらしい。
 よしおは、じいちゃんが好きだった。いろいろなことを教えてくれる。きょうも話したいことがあった。でも、なかなか言い出せなかった。だから、じいちゃんやばあちゃんのことを聞いた。
「あのさ、じいちゃん」
 よしおが、もじもじしながら言い出した。
「友だちはいた」
「なにをして遊んだ」
「けんだまってなあに」
「コマまわせる」「野球はしたの」
 よしおは、矢つぎばやに聞いた。
「はっはっはっ、よしおはなんでも聞いてくるな」
 じいちゃんが、声だかに笑った。
「けんかはしたの」
「仲直りってどうしたらいい」
 よしおの質問が続く。
「どうした。友だちとけんかしたんか」
 よしおは、ちょっと言葉をつまらせて下を向いた。
「だって…」
 ますます小さい声になった。
「そうか、そうだったか」
 じいちゃんは、よしおの頭をなぜた。そしてゆっくり話しだした。
「よしおのいいところはな」
「うん」
「なんでも自分のことばで言うとこじゃ」
「じぶんのことば」
「あぁ、自分でよくかんがえて言うじゃろ。ばあさんもそうだった」
「だってぼくが言うんだもの」
「そこがいいんじゃ、そこんとこがな。ばあさんに似とる」
 よしおはわかったようなわからんような気持ちでいた。
「はっはっ。もう一度自分のことばで、その子に話してごらん」
 じいちゃんは、もう一度よしおの頭をごしごしなぜた。
 リーン・リーン
 夕がた吹くすず風が、ふうりんのすんだ音をひびかせた。そこに鳴き虫の音が重なりあった。
 リリ・リーン
「ほほっ、すず虫が鳴き出したわい。きれいな音を出すなぁ」
と、庭に下りたおじいちゃんがよしおを呼んだ。
「ぼくには、すず虫の声は、ふうりんの音にも似ているって思う」
 よしおは、夕焼け空をあおぎ見て言った。軒では夏まつりの縁日で買ったふうりんが、しずかにゆれた。

しろやま会員 かど まさこ 



<<前ページへ ▲目次ページへ 次のページへ>>