広報 あぐい
2008.01.01
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(ひる)()がりの初夢(はつゆめ)

〜みんなの童話〜

 

冬とは思えない、暖かい元旦の昼下がりでした。
「七福神の絵を、まくらの下にして寝るといい初夢をみるぞ」
じいちゃんから聞いた良太は、新聞の絵をまねてやっとかきあげました。これでいい夢が見れるぞと大満足でベランダに出ました。
あれぇ、庭の生けがきの前をひょこ、ひょこっと、黒いハットにマントの男が、バスケットをかかえて通りました。
今では見かけなくなった格好に、ちょっと興味がわいて、後ろすがたを見つめました。
男は、ゆらゆらゆれるかげを引きずって歩いていきます。そのかげがなにか不気味な、は虫類がはって行くようにみえました。
男は、30メートルほど先の電話ボックスの前で立ち止まりました。電話でもかけるのかな、でもちがいました。きょろきょろ、辺りを見回わすとしゃがみこみました。
どうした? 背中しか見えません。なにかしているようでしたが、しばらくして立ち上がると、また周りをうろっ、うろっと見回して歩き出しました。
あれ、ボックスの前にバスケットがあります。忘れてったんだ、でも男は気がつかないのか、街路樹のかげに消えて行きました。
思い出して引き返してくるかな、でも現れませんでした。知っていて置いていったんだ、そう思った時、
カチ、カチ、カチ、カチ……
時をきざむ時計の音です。電話ボックスの方から聞こえてきます。
ひょっとしたら……、おそろしい予感がしました。
早く、だれかに知らせなくちゃ、でも声が出ません。体も、金しばりされたように動きません。
その時、男の消えた街路樹の間から、女の子と手をつないだ親子が出て来ました。
あぶなーい、にげるんだ!
でもふたりには聞こえません。ボックスに近づいて来ます。
カチ、カチ、カチ、カチッ
時計の音が止まりました。
ドカーン!
ばく発音が耳をつんざきました。
電話ボックスがふっ飛び、街路樹がたおれ、黒煙が空をおおい、なにも見えなくなりました。
良太はつっぷせたまま、身動きもできませんでした。
どれだけたったでしょうか、
ピーポー ピーポー
救急車の警報です。
つっぷせていた良太は顔をあげました。まっ黒におおっていた煙はいつか消えていました。
止まるはずの救急車は通り過ぎて行きました。
ふっ飛んだはずの電話ボックスは昼下がりの太陽に映えて立っていました。
たおれたはずの街路樹は、もとのままのすがたで、新春の風に葉をゆらせていました。
「かわいい子ねこ。ねえ、ママ」
「そうね。だれがすてていったんでしょう。かわいそうに」
生けがきの前を、バスケットをかかえた女の子とお母さんが、通って行きました。
「は、は、はっは、良太の初夢は白昼夢だったか」
話を聞いたじいちゃんは、そう言ってわらいました。

童話作法講座 しろやまの会
   講 師  寺澤 正美
  さし絵  いわせ しんじ

 



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