広報あぐい

2012.01.01


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辰年たつどしりゅうとし

〜みんなの童話〜

「今年はお前の年だ。いい年にせえよ」、初詣でから帰って来たじいちゃんは、竜神様のお守りとお年玉をくれた。お守りなんかどうでもいいが五千円はありがたい。
 でも、いい年にせえって何だ、もっと勉強してほめられでもせよってことか、それなら無理なことでどうでもいいことだ。
 そんなことよりぼくには知りたいことがある。毎年、どうして卯(う)年だ辰年だってさわぐのかそれが知りたかった。だから母さんに聞いた。「辰はたつよ。卯年はうさぎ、辰はりゅう。何も変じゃないでしょ」って答えだ。これじゃさっぱりわからん。
 それなら父さんにと、ところが「干支(えと)のことか。それはむかしのこよみで年や月日や時間を、子(ね)から亥(い)までを十二のけもので言い表わしたものだ。辰は竜のようにな」と言う。やっぱりよくわからん。
 最後はじいちゃんに聞くしかない。なにしろ家ではいちばんの物知りだ。「そりゃ父さんの言うように、むかしは十二支のこよみを使っておったからな。年や時間だけじゃない方位も北は子(ね)、南は午(うま)、東は卯(う)、西は酉(とり)と動物の名を当てたもんだが、動物園にもおらんもんが一つだけあるな、辰の竜だ」
「うん、見たこともないもんな」
「そうだろ、竜は空想上の動物で中国の十二神将の一つだが、説明せりゃ難しいことだで、竜のことを少し話してやろうかな。さて竜だが、体はヘビやシシや鳥をいっしょにした動物で、角はシカ、耳はウシ、目はオニで胴(どう)はヘビだが足は四本、ウロコがあって神通力も持ってる」
「じんつうりき‥‥?」
「そうだ、海や池の底に住んでて空を飛んだり、雨を降らせたり、人間にも化けれるんだ」
「ふ、へえ、人間にもや」
「だからすがたは見えんが、どこぞにひそんどるかもしれんぞな。は、は、は、は」、じいちゃんはそう言ってわらったが、ぼくはどきっとした。竜はほんとにいるかもしれん。そう思ったからだ。
 UFOや宇宙人を見た者もおるっていう、竜がいても不思議じゃない。竜なら何事だってできる。よし! ぼくは決心した。
 竜がいるならあそこだ。ぼくは竜神様の森へ走った。雑木林の奥にどろんとよどんだうす気味悪い池がある。ぼくも一人で来たことはない。でも今日はがまんだ。
 願い事を書いた手紙とお守りをくくり付けたつりざおをにぎりしめ、かれ木にかくれてじっと池を見つめた。
 でもいくら待ってもすがたを見せない。小雪がまい始め体が冷えてきた。強気の気持ちもゆらいできた。ここにゃいないかもしれんな、でもおったら‥‥、そう思ったらぞくぞくっと体がふるえた。バジャッ、池で異様な音がした。
 ひえーっ! ぼくは悲鳴をあげて道へとび出した。男がつっ立っていた。うわーっ! とっさにつりざおを男にほかりなげて走った。
 家に帰っても身ぶるいはとまらなかった。でもあの男は竜の化身だと思ってる。だから願いはかなえてもらえる、そう信じた。
 小雪をちらつかせていた空も、うそのように晴れあがっていた。ぼくは仙台の従兄(いとこ)からの年賀状を何度も読み返した。『今年は、災害のない年にしたいなあ』、美しいかった松島の写真にそう書かれてある。
 ぼくの思いもそうだ。でもどうにもできん、それで竜に手紙を書いたんだ。だけど考えてみれば、いい年にするために、ぼくにできることだってあるはずだ。神通力なんかなくたってそれを見つけるんだ。よーし、ぼくは胸をはって思いっきり新春の大気を吸った。

寺沢正美