「おうい、変なカモが来てるぞ!」
玄関で父さんの声。こたつにもぐりこんでいた圭太(ケータ)はあわててとび出した。
「大池のカモじゃないかっ」
「そうだよ、大池のクータだ」
「クータ……?」
圭太はクータを見つめたまま声が出なかった。
圭太とクータの出会いは1カ月前にさかのぼる。
学校の帰り大池のほとりを通った。
木々の紅葉もすっかり色あせたというのに、あちこちで大人たちがつり糸をたれ、水辺の近くでは4、5羽の水鳥が泳いでいた。
おや……? 中に1羽、見かけないまっ黒なカモがいた。泳ぐでもなく、ただ頭を上げてじーっと圭太を見ている。
なんだぁ、おれに用事でもあるのか……、と圭太はにらみ返したが、それにしてもいつ、どこからやって来たのかと首をかしげた。
大池は、圭太の家から100メートルほど西にある池で、カモやアヒルが20羽ほど住みついているが、こんな黒いカモは今まで見たこともなかった。北の国からやって来たはぐれ鳥かな、そう思った。
「ふうんそうか、初対面だであいさつしてるのか。それじゃ返礼だ」
カバンに給食の残パンがあった、半分ちぎって投げてやった。
ところが横にいたカモがすばやくうばい取って水にもぐった。
「おーい、しっかりとれよ!」
どじなやつだ、圭太は残りの半分を投げてやった。
ところがだめだ。くわえたパンまで取られてしまった。
「アッホー、うばい返せぇ!」
でもとびかかっていく元気も勇気もなさそうだ。見ていて腹が立った。
「あれはいじめだな」
つりをしていたじいさんが言った。
「いじめ……? なぜ、どうしていじめるだぁ」
「よそ者の、黒い鳥だでかな」
圭太の胸に、じいさんの言葉がグサッとささった。
よそ者だからいじめられる、黒い鳥だから仲間はずれにされる……。そんなことってあるかよ! 圭太は何かやりきれない気持ちになった。
夕日が照り始めた池に、仲間からはなれた黒いカモが、1羽だけぽつんと、同じ場所で同じかっこうで浮いていた。
次の日から、圭太は毎日のように大池に行った。黒カモが気になったからだ。
1週間ほど過ぎたころから黒カモは池から上がり、えさをやる圭太のそばに近づくようになったが、ほかのカモたちといっしょに泳いでいるすがたは見られなかった。
10日、20日過ぎても、黒カモは仲間を離れてひとりぼっちだった。
「よし、今日からおれの仲間だ。おれがケータだでおまえはクータだ」と、名前をつけた。
「いいか、もうすぐ正月だ。遊びに来い、ごちそうしてやるぞ」
そう言って別れたのは、冬休みに入って3日ほどたった日だった。
まさかクータが正月早々来るなどとは、圭太は夢にも思わなかった。言ったことは確かだが、言葉も家も知るはずもないカモがやって来た。
よほど友達がほしかったんだな、それにしても……。庭石の前にたたずんでいる黒カモが、圭太にはかけがえのない友達に思えた。
「クータ!」
げんかんを飛び出すと、クータをだき上げた。
童話作法講座 しろやまの会
講師 寺澤正美 |