広報 あぐい
2007.09.01
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お手玉たちの冒険

〜みんなの童話〜

 

カタッ。真夜中、ひろ君のつくえの上の小さなはこがあいた。中からとびだしてきたのは、赤、青、緑、黄、オレンジの5つのお手玉だ。ひみつの会合がはじまった。
「最近はみんなお手玉を知らないらしいよ。なんでもゲームが人気なんだってさ」
というのは、あにき分の青玉。
「えっ、ほんとうか?」
おどろいた緑玉が聞く。
「うん。ケースから出してももらえないお手玉が、たくさんあるってひろ君が言ってたわ」
と、しっかりものの赤玉。
「ぼくたち、よかったな。ひろ君やばあちゃんが毎日あそんでくれるもん。けど、外にいってみたいなあ、ぼくたち、この部屋の中しか知らないもんなあ」
緑玉が言うと、赤玉が、「そうね、きょうみある。ひろ君がいつも話してる学校とか」
と、目をかがやかせた。
「学校か、それはいいぞ。みんなで、ひろ君の学校へ行こう!」
青玉の一言で、それまでだまって聞いていた、黄色とオレンジも
「さんせい」
と、大きな声をあげた。
それから、お手玉たちは、どうやって学校へ行くか、あれこれ考えたすえ、こっそりひろ君のランドセルにしのびこんだ。

「うわっ」
何も知らないひろ君は学校でランドセルを開けて思わず大声をあげた。その声で、友達が何人かひろ君の周りに集まってきた。1人の女の子が、
「あー、かわいいお手玉。私、意外とうまいんだ。かして、かして」
と言って、赤とオレンジのお手玉をほうり上げた。すると、
「なんだ、それ。おれにもかせよ」
「私もやってみたーい。ひろ君、どうやるの」
と、お手玉はけっこうな人気になった。
チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。とそのとき、はなれた所でお手玉であそぶのを見ていた子が、
「先生、ひろ君が不要物をもってきてます。」
と言った。おこられる? ひろ君が思ったとき、つくえの上に置かれたお手玉たちがわずかだったが一せいにふるえたように見えた。
「まあ、めずらしい。ひろ君、きょうはどうしたの。じゅ業の前に少しだけ話し合いましょう」
先生はそう言うと、お手玉を前のつくえにもって行ってしまった。
どうしたの、と聞かれたひろ君は困った。なぜお手玉が入っていたかなんてひろ君にもわからない。けど、
「みんなであそんだら楽しいかなと思ってもってきました。」
と、こたえた。置かれたお手玉の形が、ひろ君には心配そうに肩をよせ合っているように見えた。
「お手玉はだめ」とか、「不要物だ」、という意見が出ると、お手玉たちは少しだけたてに長くなったり、「いいんじゃない」「やりたい」という意見が出ると、ほっとしたように横に広がったりした。(お、お手玉やっぱりうごいてる。みんなに気づかれたらどうするんだよ)ひろ君はどぎまぎする気持ちをかくすようにうつむき、きのうのことを思い返した。
きのうは学校から帰ってから、おばあちゃんとお手玉をしたぞ。けど、ばんご飯の前に、部屋にもっていって、つくえの上のはこに入れたんだ。それからお手玉にはさわっていない……。きっと勝手にランドセルの中に入ったんだ。もしかしておばけお手玉……?
いや、おばあちゃんがぼくに作ってくれたとくべつなお手玉だ。早く返して。
ひろ君は、いのるような気持ちでつぶやいていた。話し合いなんか、何一つ耳に入ってこなかった。
「……ひろ君、みんなもやりたいって言ってることだし、またお手玉のあそび方、教えてあげてね」
顔を上げると、先生がお手玉をもってつくえの横に立っていた。

よかったー。ぶじ返ってきた。ひろ君はホッとむねをなでおろした。お手玉たちも笑顔でひろ君を見上げていたが、ひろくんは気づかず、あわててお手玉をつくえの中にしまいこんだ。
「なあ、学校って楽しいとこだな」
「話し合いはどきどきしたよ」
「ねえ、あしたもしのび込まない?」
そのばん、ひろ君はゆめの中でこんな会話を聞いた気がした。

しろやま会員  渡辺 郁巳



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