広報あぐい

2013.01.01


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兄弟カッパ

〜みんなの童話〜

 人里はなれた山の沼に、太郎と次郎といういたずら好きの、兄弟カッパがおりました。里に下りて畑の作物を荒らしたり、人をおどろかせて楽しんでいました。
「今日はシリぬきにいくぞ。おれは人間のシリをぬくから、次郎は馬のシリをぬけ。どちらがおもしろくぬいてくるか競争だ」
 兄の提案で、兄弟カッパはそれぞれに里へ下りて行きました。
 太郎は、わらで体をかくして里の中を回りました。カッパは妖怪(ようかい)だ、と思っている人間に見つかれば何をされるかわからない。だから危険の少ない馬の方を弟にさせたのでした。
「すもうを取る者はいないかぁ、おれとすもうとらないか!」
 太郎は声をかけて回りました。すもうの好きな者もいました。
 三、四人の男がいどんできました。でも太郎にはかないませんでした。最後に里一番の力じまんの男との勝負でした。
 ようーし、こいつを投げたおしてシリをぬいてやるぞ、太郎はそう思って取っ組みました。
 ところが、男のばか力にはかないませんでした。どうしてだぁ、力がでない。逃げなきゃ投げころされちまうと、けんめいにもがきましたが、男は太郎のうでをつかんだままはなしません。
 もうだめだ、そう思った時するっと体がぬけました。助かった!太郎は後も見ずに逃げました。
「おーい忘れ物だぁ、カッパ!」
 男が呼んだが太郎はむちゅうで走りました。カッパと呼んだ声だけが耳に残っていました。
 沼に着いた時、「ふへえ!」、
太郎はびっくりぎょうてん、ひっくり返りました。うでがぬけてなくなっていたのです。
 弟の次郎は、途中の畑で好物のキュウリを腹いっぱい食い散らして、遊びながら歩きました。
 里道に出た時、馬を引いた百姓の来るのが見えました。
 しめたぁ、あの馬のしりをぬいてやれ、と近づいて来た馬のしっぽにしがみつきました。
 百姓はそんなことには気がつかずに家に着きました。ようし、ぬいてやるぞ、そう思って次郎がしっぽをはなした時、
「おーい! カッパだぁ!」
 しまったぁ、と思ったがおそかった。かけつけた男たちに取っつかまり、馬小屋の柱にしばりつけられてしまいました。
 神通力さえ使えれや……、でも頭のさらに水がなければ神通力は通じません。次郎は遊びすぎて水をからしたことをくやみました。
 今ごろどうしてるだろか……、身動きもできない次郎でしたが、太郎のことが案じられました。
 水、みずー、みずがほしーい、
次郎はこれほど水がほしい、と思ったことはありません。
「お、これがカッパか。でもしょげかえってかわいそうに」
 馬にカイバをやりに来たおかみさんでした。
「水が飲みたいだろ、やろかな」
と、バケツの水を次郎の頭にかけました。かわききっていたさらに水が貯まりました。
 ぐぐーっ、次郎に神通力がわきました。柱を引っこぬき、馬小屋をおしつぶし、おかみさんをつきとばして山へはしりました。
 その夜、太郎と次郎は話し合いました。昼間のことが気になり、心が痛んだからです。
 太郎は、「里の男たちはカッパと知っていても、すもうを取ってくれた。少しもこわがっていなかった」と、弟に話しました。
 次郎は、「親切に水をくれたおかみさんをつきとばし、馬小屋をおしつぶして逃げて来た。しばられたのも、馬のシリをぬこうとしたからだ」と、兄に話しました。
 人間にきらわれたり、こわがられるのは、悪さをしたり、神通力で困らせているからだ。太郎と次郎はそう思いました。
「あした、あやまりに行こう」
 次郎は、川魚をおみやげに、太郎は、両うでを返してもらいに。
 兄弟カッパは、もう神通力などいらない、里人にも仲良くしてもらえるカッパになるんだ。と、星空を見上げてちかいました。夜は静かにふけていきました。

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新年おめでとうございます 
寺沢正美