町のはずれに、だれが着せたか赤いカッパを着た、おじぞうさんが、立っていました。
ある日のことでした。スケッチブックを持った、おばあさんが、おじぞうさんの前を、通りかかると、つえをついて、お花を持ったおじいさんが、おじぞうさんに、お参りしているのに出会いました。おばあさんは足を止めて、おじいさんに声をかけました。
「こんにちは、どなたかお知り合いの人の、おじぞうさんですか」
おばあさんは、おじぞうさんのことが、気になっていたのです。声をかけると、おじいさんは、花を石の上に置いて、ていねいに手を合わせて、長くお祈りをしてから、ふりむきました。おばあさんはきっと、おじいさんの知っている人がおまつりしてあるのだと思いました。
「わしもよう知らんが、朝の散歩にここまで来ると疲れるので、毎日ここで、ひと休みさせてもらうので、花を一本そなえるだけじゃよ」
おばあさんは、となり町から、ときどき、この山をスケッチに来ます。県道から山道の方へ行く角の所に、おじぞうさんは、まつってあります。
おじぞうさんの前でお参りする人も、お花があるのを見たことがなかったので、何だか心があたたかくなり、おばあさんも、手を合わせました。そのとき、
「このじぞうさんには、あわれな話が伝えられているのだよ」
おじいさんの目は、かなしそうな目でした。
「昔のことだが、この村に仲良しの、太郎と千代という子供がおったんじゃ。ところが其のころ、この村は、山ばかりで田んぼがなくて、米がとれず、子供たちは食べるものがなく、野原に出ては、食べられそうな物をさがして、食うとったげな」
おじいさんは急に立ち上がり、おじぞうさんの、後ろあたりに、今も残っている林の方へ、指をさして、
「あの林の中に、一本の柿の木を、太郎が見つけたのじゃ、それが赤く色んでいたので、太郎は千代に、
「柿、取ってやる」
と言うが早いか、危ないと言う声も聞かずに登って、一こをつかんだが、そのとき、ポキンとその枝が折れて、太郎が『ドスン』と大きな岩の上に落ちてしまったのじゃ。千代の泣き叫ぶ声で、村人たちが来た時には太郎の息はなかった。手には真っ赤な柿をしっかり持っていたそうな。
その日から、千代は毎日、柿一こを持って、あの岩の上に来ては、泣いとったげな。柿の実は、からからと種ばかりになっても、手から放さず、千代は、そこの岩の上で、天国の太郎の所へ逝ってしまったそうな。このじぞうは、そんな二人のために、立てられたと言う事だわな」
おじいさんの、ながい話は終わりました。おばあさんの目からは、涙がながれました。おじいさんの話は、まだ終わりません。
「それから、じぞうの立っている場所のことだが、昔、昔、大昔の話だが、山の中に細い道があって、北の村と、南の村の境のしるしに大きな松の大木があったそうだ。
その松の木を目印に、北からと南からの若い二人の合う場所だったと言うことで、愛の松の木と言われていたのじゃ、その松の木が枯(か)れた後に、太郎と千代の、子供の愛を記すために、その場所を選んで、太郎と千代の、じぞうが立てられたのじゃ」
今では、太郎と千代じぞうを、愛のじぞうさんと、若い人たちがお参りするそうです。
春の雨はまだ寒く、
だれが着せたか、
赤いカッパの
おじぞうさん。
しろやま会員 中川 かなめ |