「パパ、みて。ぼくの大すきなミニカー」
「おう、かっこいいな」
けんちゃんが、白いミニカーをパパに見せてとくいになっていると、
「けんちゃん、おつかいに、いっしょにいかない?」
と、ママがさそった。
「うん、いく、いく」
けんちゃんは、あそんでいたミニカーをおおいそぎでおもちゃばこにしまった。
「パパ、おるすばんたのんだわよ」
けんちゃんとママは、外に出た。ママが、
「まあ、きょうの空きれいね」
と、空をゆびさした。空はとおくまであおかった。
「あ、ママ。あっちにムクムク雲がうかんでるよ」
「ほんと、きれいな雲ね」
「あれは、いも虫・くじら。あ、しんかんせんだ。ぼくものりたいな、ルルルルルン…」
けんちゃんは、うたってみたくなった。
おそらのくもにのりたいな
そしてとおくへいきたいな
くものわたがしいっぱいたべて
くものベットでねむりたいな
「まあ、いいうたね。ママもまねしちゃおう」
おそらのくもにのりたいな
そしてかぜとあそびたいな
しろいドレスをふわふわさせて
くものおしろでおどりたいな
けんちゃんが、ママの手をぎゅっとつかむと、ママは、けんちゃんの方をむいて、にっこりした。
「ママ、みて、みて!あの雲、ぼくのもってるミニカーといっしょだよ。あの車のグレーのよこせんもいっしょだ」
「ほんと」
「あ、うしろに大きなかいじゅうもならんでるよ」
「まあ、大きな口と大きなからだ」
けんちゃんのお気に入りの白いじどうしゃは、ゆっくりゆっくりと走っていく。
「かっこいいな、うれしいな」
大きな声で、空にむかってさけんだ。そのとたん、小石につまづいてころんだ。
「あ、あぶない。けんちゃん上ばかり見ているからよ。ねえ、けがしなかった?」
ママは、しんぱいそうにきいた。
けんちゃんは、ぬげそうになったくつのひもをなおして、いそいで空を見まわした。
「え、ぼくの車、どこ?」
車は、いつのまにかきえて、うしろにいたかいじゅうが、大きな口をあけ、おなかをふくらませていた。
「だめだよ、いやだよう。たべちゃだめだよかいじゅうめ!ぼくのだよー、かえせ!」
けんちゃんは、げんこつをふりあげた。
「ママ、ぼくおつかいにいきたくない」
くるりとうしろをむくと、けんちゃんは走った。家にむかって走った。
「ぼくのミニカー、ぼくのだいじな車」
と、いいながら走った。いきが切れそうになるまで走った。
げんかんをかけあがると、
「けんちゃん、どうしたんだい」
と、しんぶんをよんでいたパパがきいた。
「かいじゅうが、ぼくの、ぼくの車を…」
けんちゃんは、いちもくさんにへやにとびこんだ。
白いミニカーは、おもちゃばこに入っていた。
「あった!よかった!」
あんなに、あんなにしんぱいしていたきもちが、やっとあんしんにかわって、けんちゃんの目から、うれしなみだがポロポロとおちた。そして、車をやさしくなでた。なんどもなでた。
しばらくすると、けんちゃんをおいかけてきたママが、げんかんでパパに話している声がした。
「そうだったのか。ハハハハ…」
二人のわらい声がきこえてきた。
けんちゃんは、自分もおかしくなって、かたをすぼめてククッとわらってしまった。
外に出て、空を見あげると、雲は、いつのまにか山のようなかたちをしてうかんでいた。
あの、にっくきかいじゅうは、もういなかった。
しろやま会員 やの かづこ |