広報 あぐい
2009.09.01
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雲のじどうしゃ

〜みんなの童話〜

 

「パパ、みて。ぼくの大すきなミニカー」
「おう、かっこいいな」
 けんちゃんが、白いミニカーをパパに見せてとくいになっていると、
「けんちゃん、おつかいに、いっしょにいかない?」
と、ママがさそった。
「うん、いく、いく」
 けんちゃんは、あそんでいたミニカーをおおいそぎでおもちゃばこにしまった。
「パパ、おるすばんたのんだわよ」
 けんちゃんとママは、外に出た。ママが、
「まあ、きょうの空きれいね」
と、空をゆびさした。空はとおくまであおかった。
「あ、ママ。あっちにムクムク雲がうかんでるよ」
「ほんと、きれいな雲ね」
「あれは、いも虫・くじら。あ、しんかんせんだ。ぼくものりたいな、ルルルルルン…」
けんちゃんは、うたってみたくなった。
  おそらのくもにのりたいな
  そしてとおくへいきたいな
  くものわたがしいっぱいたべて
  くものベットでねむりたいな
「まあ、いいうたね。ママもまねしちゃおう」
  おそらのくもにのりたいな
  そしてかぜとあそびたいな
  しろいドレスをふわふわさせて
  くものおしろでおどりたいな
 けんちゃんが、ママの手をぎゅっとつかむと、ママは、けんちゃんの方をむいて、にっこりした。
「ママ、みて、みて!あの雲、ぼくのもってるミニカーといっしょだよ。あの車のグレーのよこせんもいっしょだ」
「ほんと」
「あ、うしろに大きなかいじゅうもならんでるよ」
「まあ、大きな口と大きなからだ」
 けんちゃんのお気に入りの白いじどうしゃは、ゆっくりゆっくりと走っていく。
「かっこいいな、うれしいな」
 大きな声で、空にむかってさけんだ。そのとたん、小石につまづいてころんだ。
「あ、あぶない。けんちゃん上ばかり見ているからよ。ねえ、けがしなかった?」
 ママは、しんぱいそうにきいた。
 けんちゃんは、ぬげそうになったくつのひもをなおして、いそいで空を見まわした。
「え、ぼくの車、どこ?」
 車は、いつのまにかきえて、うしろにいたかいじゅうが、大きな口をあけ、おなかをふくらませていた。
「だめだよ、いやだよう。たべちゃだめだよかいじゅうめ!ぼくのだよー、かえせ!」
 けんちゃんは、げんこつをふりあげた。
「ママ、ぼくおつかいにいきたくない」
 くるりとうしろをむくと、けんちゃんは走った。家にむかって走った。
「ぼくのミニカー、ぼくのだいじな車」
と、いいながら走った。いきが切れそうになるまで走った。
 げんかんをかけあがると、
「けんちゃん、どうしたんだい」
と、しんぶんをよんでいたパパがきいた。
「かいじゅうが、ぼくの、ぼくの車を…」
 けんちゃんは、いちもくさんにへやにとびこんだ。
 白いミニカーは、おもちゃばこに入っていた。
「あった!よかった!」
 あんなに、あんなにしんぱいしていたきもちが、やっとあんしんにかわって、けんちゃんの目から、うれしなみだがポロポロとおちた。そして、車をやさしくなでた。なんどもなでた。
 しばらくすると、けんちゃんをおいかけてきたママが、げんかんでパパに話している声がした。
「そうだったのか。ハハハハ…」
二人のわらい声がきこえてきた。
 けんちゃんは、自分もおかしくなって、かたをすぼめてククッとわらってしまった。
 外に出て、空を見あげると、雲は、いつのまにか山のようなかたちをしてうかんでいた。
 あの、にっくきかいじゅうは、もういなかった。

しろやま会員  やの かづこ



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