広報 あぐい
2009.06.15
バックナンバーHOMEPDF版 ダウンロードページへ

あぐいぶらり旅 
〜石造物を巡る(板山・福住・白沢コース 3)〜

シリーズ 阿久比を歩く 102

 



山門下にある“読誦塔”



観音像の一番下が“蓮台”


友人と2人で石造物を探しに板山地区の安楽寺へ出掛けた。

初夏の日差しを浴びながら福山川に架かる安楽橋を渡る。少し歩くだけで汗が出る。大きな山門で日陰ができる。しばらく涼しい場所で川の流れを見ながら休む。

寺の住職に話が聞けた。「安楽寺読誦(どくじゅ)塔」と「蓮台(れんだい)」を案内してもらう。

山門右下の石垣の前に読誦塔が立つ。台座の上には、赤い帽子と前掛けで着飾られた釈迦如来像が座る。

“お釈迦さま”は、軽く組んだ両手を膝の上に乗せ、目を閉じて瞑想(めいそう)にふける。顔の表情は実に優しい。調査報告書の解説によれば、享保20(1735)年の建立。台座の正面には「奉」「讀」「誦」の文字が読み取れる。

読誦とは経文を声に出して読んだり、そらで読んだりすることを意味する。経文をたくさん読んだ功績を釈迦如来像に残そうと奉納された石造物のようだ。

「僕は、小学生のころから毎週かかさずマンガを買って読んでます。この継続性すごいと思いませんか。マンガを読む自分の姿の石造を作ろうかな」と友人が自慢げに話す。「……」。何もしゃべらない釈迦如来の目尻が下がったような気がした。

次に延宝4(1676)年に作られた「蓮台」を探しに行く。住職も「どこにあるのでしょうかね」と首をかしげる。私たちと一緒に境内の裏山の墓地を探してくれることになった。

蓮台は、(ひつぎ)(亡くなった人を入れて葬る箱)を置く場所と説明がある。火葬ではなく土葬が行われていた時代は、棺を自宅から墓地まで運び、蓮台の上に載せて葬儀が行われていたとのこと。

「ここが葬儀場跡だから、あるとすればこの辺りだと思いますよ」と案内してくれたが見つからない。半ばあきらめかけていると「蓮台というのは、本来仏像が乗っているハスの花の形をした台座だから、もしかすると……。あれじゃないですか」と住職が崖を利用して造られた墓地の上に立つ観音像の下を指差す。

観音像の一番下に敷かれた石は、丸みを帯び、端の部分は花びらをイメージする形になっている。記されている文字は確認できないが、形や風化した状態から、探していた「蓮台」に間違いない。

少し重い意味を持つ石造物であったが、「『蓮台』の本来の姿で、現存することが分かってよかったです」。住職の一言でその場が和んだ。



<<前ページへ ▲目次ページへ 次のページへ>>