広報 あぐい
2009.04.15
バックナンバーHOMEPDF版 ダウンロードページへ

あぐいぶらり旅 
〜石造物を巡る(横松・萩・宮津コース 3)〜

シリーズ 阿久比を歩く 98

 



「享保」と刻まれた文字



谷性寺境内に並ぶ「六地蔵」


町内最大であるといわれる「六地蔵」がまつられる谷性寺へ行く。

境内の桜は三分咲き。開花時季は例年に比べると少し早かったが、3月の終わりに寒い日が続き、つぼみの期間が長い。

清掃作業をする若い和尚さんに六地蔵の場所を尋ね、案内してもらう。釈迦如来の石造物が中央に立ち、左右に3体ずつ、高さ約1mの計6体の地蔵が並ぶ。雨風に長い年月さらされたせいか、地蔵の姿はかなり風化が進む。それでも地蔵の表情は笑った顔や怒った顔に見え、それぞれ違う顔をしているのが分かる。

「お墓参りの後に、おばあさんたちが1体1体ていねいに拝んでみえますよ」と和尚さんがほほ笑む。

地蔵といえば『かさじぞう』の昔話を思い出す。

―貧しい老夫婦が笠を売り、お金に換えて正月のもちを買おうと、おじいさんは5つの笠を持ってまちへ出掛ける。途中で雪に降られ、村はずれで頭や肩に雪の降り積もる6体の“お地蔵さん”に遭遇。寒くて可愛そうに思ったおじいさんは5つの笠と、自分のかぶっていた笠をお地蔵さんにかぶせ、もちも買わずに家に帰る。「いいことをした」と2人で喜ぶ。その夜お地蔵さんたちが、お礼にと正月用のごちそうを届けにやって来る。―

友人と「かさじぞう」の話で盛り上がる。

「貧しくても、温かい心をいつも持ち続けることは大切なことですよね。おじいさんとおばあさんの純粋な気持ちを見習いたいです。2人はお酒を飲んで若返るんでしたよね」と友人が聞いてくるので、私は「えぇ。それは別の話じゃないの」と返す。

境内東の丘陵地には墓地が立ち並ぶ。石が積み重なった墓石のほかにも小さな地蔵が所々に見られ、「享保」「天保」の年代の文字が刻まれる。江戸時代からこの地を見つめてきた石造物がとても多い場所だ。

「僕らもおじぞうさんに、何かしてあげることはないですかね」と友人が言う。「君は下心がみえみえだからなあ」。「そんなことないですよ。(笑)」。静かに手を合わせ、境内を後にした。



<<前ページへ ▲目次ページへ 次のページへ>>