広報 あぐい
2006.11.01
バックナンバーHOMEPDF版 ダウンロードページへ

はじめてのクッキング

〜みんなの童話〜

 

ほうか後の校ていを冷たい風が吹きぬけていきました。
「さむ〜い」
ゆかちゃんは、合わせた両手にいきを吹きかけながら、家に帰りました。
「ただいまー」
「おかぇ〜り」
玄関のドアを開けたお母さんの声に、元気がありません。
「お母さん。どうしたの?顔赤いよ」
「少し体がだるいの。でも大丈夫よ」
と、2階に洗たく物を取りこみに行きました。
ゆかちゃんは、キッチンのテーブルの上で算数の宿題を始めました。
お母さんはもどってくると、洗たく物をたたみ始めました。たたんでいるお母さんの体が、ゆら〜りゆら〜りとゆれています。
「お母さん、ふらふらしてるよ。ねた方がいいよ」
お母さんは、洗たく物をたたみ終えると言いました。
「じゃー、ねかせてもらうね」
1人ぼっちのキッチンは、急にし〜んとしずかになりました。今まで気にならなかった時計の音が、カチカチ、と大きくなって聞こえました。
(5時か。お母さん、どうしてるかな?)
ゆかちゃんは、お母さんのことが気になって、宿題が少しも進みません。
(あ、そうだ)
冷ぞう庫から冷えぴたを取り出しました。ゆかちゃんは、熱を出した時に、お母さんにはってもらったことを思い出したのです。
「お母さん、早くよくなってね」
ゆかちゃんは、お母さんのひたいに、冷えぴたをはりました。お母さんが、目をさましました。
「お母さん、今日は私が夕ごはん作るね」
「だめよ、あぶないから」
「3年生だもん、大丈夫だよ」
ゆかちゃんが、どうしても作ると言うので、お母さんは、しぶしぶゆるしました。
「シチューの作り方を教えて。シチューならぐあいの悪いお母さんもたべられるよね」
ゆかちゃんは、作り方を一生けん命おぼえました。

ゆかちゃんは、お母さんの言ったように玉ねぎを半分にして、それをまた半分にしました。トン、トン、トン。だんだん目にしみてきました。
「目がいた〜い」
ゆかちゃんは、手のこうでなみだをぬぐうと、玉ねぎを切りました。
(じゃがいもは、1センチぐらいの角切り?どれぐらいかな)
ゆかちゃんは、ものさしを持ってくると1こ1こじゃがいもに当てて切りました。
(にんじんはどうするんだったかな?)
ゆかちゃんは、お母さんに聞きに行きました。でも、ねていたので起こしませんでした。
(にんじんも、じゃがいもと同じように切っちゃえ)
ゆかちゃんは、にんじんをじゃがいもと同じように切りました。かたくてほうちょうをにぎった手がいたくなりました。
(あとはいためて、ルーを入れればいいんだ)
シチューがグツグツいっています。7時になって、お父さんが会社から帰って来ました。
「ゆかが作っているのか、お母さんは?」
ゆかちゃんは、お母さんのぐあいが悪いことを話しました。
「そうか、それならお父さんがサラダを作るか」
お父さんは、サラダが出来上がると、お母さんを起こしに行きました。
おいしそうなシチューのにおいが、キッチンにただよっています。さいころみたいなにんじんとじゃがいもが見えました。
お父さんが、すいはんきのふたを開けて、言いました。
「ゆかー、ごはんは?」
「あぁ〜、たくのわすれたー」
テーブルには、ごはんのかわりにパンがのりました。
「シチュー、おいしいわよ」
お母さんが、ほめてくれました。
「はじめてのクッキング半分だけ大成功!」
「それって、大成功って言うのか」
お父さんがわらいました。
ゆかちゃんは、またクッキングしたいとおもいました。大成功をめざして!

しろやま会員  木村 久世 



<<前ページへ ▲目次ページへ 次のページへ>>