広報 あぐい
2006.03.01
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あしたになれば

〜みんなの童話〜

まちはずれに、赤いポストが立っていました。

「あぁあ、きょうも一日手紙がこなかったなぁ」

ポストは、さみしそうにひとり話しをしていました。

「さいきん、人もあまり通らなくなった。いまは、けいたいとかで、画像なんて送れるって聞いたし」

ゆっくりあくびをすると、ずんぐりしたしせいで、うとうとしはじめました。

「カカァ、カァ。またポストたらっ、日長一日手紙をまっていたのかなぁ」

夕焼け雲にせかされて、山のねぐらに帰る途中のカラスが、ポストのまわりをひとめぐりしました。

1年でいちばん寒いこのきせつは、日が短く、もう夕日のあたらなくなったところから、暗くなりかけていました。

「なぁ、ポスト。またねてるのかよー。よくねるやつになっちまったなぁ」

ポストは、つめたい風に、からだをふるわせると、
「むっ、だ、だれだ。わたしのことをよくねるやつなんていうのは!」

おおきく目をあけて、あたりを探しました。

すると、カラスがいっぴきポストの肩にとまっていました。

「ぼくじゃないよ。よくねるやつなんていってないよ」

カラスは、あわてて、ちがうちがうと羽をふって答えました。

ポストは、思いっきり息をすいこむと、さけびました。

「えーっ、いったいだれなんだ。いつもねているみたいにいうなんて」

そのときです。ビューッと風が、ポストのまわりを走りました。

「ねてしまったら、手紙がきても、わからんだろ」

「えっ、か・ぜ・さん?」

ポストは、キョロキョロッと、目をしばたきました。

「あぁ、わたしはきせつの風さ。春には春の顔。夏には、てりつけるひでりを、そっと、やわらげてあげたでしょ。いまは冬のつめたい北風だ」

風は、枯れ葉をまきあげて、ポストのほほをつつきました。

「ややっ、さむくなってしまう」

ポストが、ふくれっつらで、ぷりぷりおこりました。

肩に止まっているカラスも風にあおられて、羽をパタパタさせました。

「なんだか、たいくつそうだから、ね。きょうも、手紙がこなかったのかな」

風は、ポストの顔をのぞきこみました。

「このごろでは、たっきゅうびんとかメールびんとか、あるから」

ポストが、がっくりと肩を落としました。すると、
「あぁぼくも、駅前の商店街で、バイクびんていうのぼりを見たよ」

カラスも思い出して、いっしょにしょんぼりしました。

「パソコンでチャットとかいうのがあって、いっしょにしゃべれるって聞いた。だんだん手紙が、変わってしまうな」

ポストは、だんだん小さな声になってしまいました。

「そう。でも、伝えたいきもちは、きっといまもいっしょだよ」

風は、はげますようにいいました。

「むかしの人は、すみをすって、筆で書いていたんだけどなぁ」

ポストはふと、鼻につきっとくるすみのにおいを、思い出しました。

カラスは、スミーといって鼻をつまんで、首を横にふりました。

「…そうそう、まき紙なんてつかってさ。線なんてない、ただのか・み・だった」

ポストは、空を見上げて、なつかしそうなにほほえみました。

「そうかぁ。でも、まだ北風がつめたいから、うちのなかで、じっくり考えて、心のこもった手紙を書くんじゃないの」

風は、ポストの肩をやわらかい風でつつみました。

「心のこもった手紙?」

「あぁ。これからは、わたしがあたたかくなる風を吹かせるから、きっと春の便りがふえるよ。いっしょにまっていようよ。あしたになれば、ね」

ポストは、風のことばに、ほんわかあったかい気分になりました。

「早く春の便りが来るといいなぁ」

カラスもうれしそうに言いました。

しかし、ポストは、さきほどから背中にはってある白い紙が、気になってしょうがありませんでした。

紙には“きねん写真にいかがですか、レトロなポストです”と、書いてあったのでした。

しろやま会員  かど まさこ



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