2011.01.01
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健太のなやみを聞いたばあちゃんは、「じゃ3日間、これをまくらの下にして寝てごらん。人に気づかれないようにね」と、小さな封筒を健太に渡しました。健太は絶対にそうすると約束しました。
        その夜、健太は教えてもらったようにして寝ました。
        次の日の体育は健太の大きらいなマラソンでした。5年生は運動場5周、健太はいつもびり、それも半周もおくれてのびりでした。太ってるで走れんわ、それがきらいになった理由でした。
        でも今日はちがいます。時間を待っていました。昨夜ゆめを見たからです。それは先頭で走っているゆめでした。ところがとちゅうで目がさめました。だからゆめの続きが気になり、よし、走ってみようと思っていたのです。
        「ようい、スタート」先生の号令で走りました。けんめいに走りました。ゆめでは1位になれるはずだそう思って必死に走りました。結果はやっぱりびりでした。
        でもみんなから2、3メートルしかはなれていないびりでした。「よくがんばった。その気になれば走れるじゃないか」、先生がほめてくれました。ゆめとはちがったが健太は満足でした。
        その夜健太は大失敗、寝小便をしちゃいました。ゆめのせいだ、健太はゆめをうらみました。それは理科の授業のゆめでした。
        先生が健太に聞きました。「体重の3分の2は水分だが、水分てなんだ」、「……」。「じゃ、雨は」、「……」。「花には何をかける」、答は「水だ」健太にはわかっていたが声が出ませんでした。するとだれかが「健太の小便だ」って、大わらいしました。健太が寝小便に気がついたのはその時でした。
        2学期も今日が最後、先生から「少し運動するといいな。毎日、かけ足かなわとびをやったらどうだ。体が軽くなるぞ」そう言われて、通知表をもらいました。マラソンはほめられたが、通知表の体育はやっぱりだめでした。
        その夜も封筒をまくらの下にして寝ました。本当は封筒の中を見たかったのですが、約束は守るべきだ、それに今夜一晩だ、そう思ってがまんしました。
        真夜中、ゆめに1人の男が現れ健太を外に連れ出しました。星もない暗やみの中を健太は男に引きずられるように歩きました。
        暗かった空が明るくなってきました。「見ろ」、男が指さしました。やせた動物たちがえさを探していました。と、草むらに一頭の動物を見つけたようです。
        見つけられた動物はまるまると太っていました。必死ににげました。でも太っていてにげてもにげてもにげきれず、やせた動物たちにつかまってしまいました。
        「見たろ、あの太った動物がお前だ」、男はそう言うとすうっと、すがたを消してしまいました。
        朝、目がさめた健太は、ゆめを思い出してぞっとしましたが、ばあちゃんとの約束の3日が過ぎたのにほっとしました。
        健太はわくわくしながら封筒を開きました。ところが中には便せんが1枚入っていただけでした。
        2、3日過ぎたころから健太に異変が起きました。いやがっていた運動を始めたのです。かけ足になわとび、それにスポーツクラブまで行くとゆうのです。父さんも母さんも首をかしげましたが、ばあちゃんは「どんなゆめを見たのかな」って、わらっていました。
        健太をこんな気持ちにさせたのは何だったでしょうか……。便せんには何が書かれていたのでしょうか……。そして健太のなやみとは……。それは作者にもわかりません。
阿久比創作童話の会 「しろやま」講師 寺沢正美
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