| アメンボの水面に作る波紋伸び春は長閑に知多野をめぐる |
岡本 育与 |
| おちこちの桜花の便りは届けども吾家のさくらいまだ笑まわず |
大村寿美子 |
| この花を見ずして逝きし友のありいつも笑顔の明るき友なり |
渡邊百合子 |
| 大根が身を乗り出してうまそうな白き肩出し背伸びして立つ |
竹内 久恵 |
| 草もちをためらいつつ食むもう一つ祖母への想いと春を味わう |
加藤かずみ |
| ロウソクの炎が隔てる生と死は我が越えられぬ線と成りたり |
木村 久世 |
| 風向きを変へて黄砂を返したし車はきな粉まぶしたやうに |
奥田 貞子 |
| 茶碗むし味噌汁サラダにエビフライ回転ずし業進化めざまし |
長坂吉余子 |
| 人恋うは哀しきものと知りぬるは『野菊の墓』を読みしそのころ |
三留 享 |
| 不況時に閉じられていし工場の窓開けるを少し安堵す |
勝 暁子 |
| うぐいすの初啼き聞きし弥生十日土筆たらの芽香りを食す |
山崎 淳子 |
| 生きてゐる限り悩みはついてくる一度あの世を眺めて見たし |
佐野 雄造 |