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2016.03.01


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阿久比町のオアシス 文化の泉

□応募・問い合わせ先 社会教育課公民館係 TEL (48)1111(内1501)

先月号から始まった、絵画や彫刻、生け花など、町民の皆さんの力作を掲載する“阿久比町のオアシス 文化の泉”。掲載した作品は、庁舎などで展示も行います。次号に掲載する作品を募集しています。団体・個人を問わず阿久比町在住の方であればどなたでも応募できます。作品展などで入賞した作品でなくても結構です。どしどしご応募ください。


応募方法
掲載してほしい作品などを中央公民館窓口までお持ちください。(選考は社会教育課が行います。)
応募・問い合わせ先
社会教育課公民館係 TEL (48)1111(内1501)

■油絵

■創作童話
卒業式の思い出

「ママ、りんの卒業式感動した?」
「もちろん。呼びかけのとき、りんちゃんが、『お母さん、見守ってくれてありがとう』って言ってくれたでしょ。その一言で、ママ泣けちゃった」
 卒業式の帰り道、中学校に入学するまでは、もう少し甘えてもいいよねと自分に言い訳をして、わたしは、ママと手をつないだ。

「ママ、小学校の卒業式のこと、覚えてる?」
「よーく覚えてるわよ。すてきな思い出があるの」
 わたしは、なかのよかった友達の話かなと思って耳を傾けた。
「ママはね、自分の卒業式のとき、ずっと、ママのお母さんのことを考えていたの」
 ママのお母さんは、ママが小さいときに亡くなったと、わたしは聞いていた。
「ママのお母さんは、赤い服がよく似合うきれいな人だったの」
 ママは、じまん気に言った。
「だから、ママも美人なんだね」
 ママは、にっこりして、決心したように話し始めた。
「りんちゃんも、四月から中学生だから、ほんとのことを話すわね。ママのお母さんは、亡くなったんじゃなくて、ママをおいて、とつぜんいなくなっちゃったの」
「えっ。どうして」
 わたしは、びっくりした。
「わからない。お母さんの話をすると、お父さん、人がかわったように怒り出すから、聞けなかった。お父さんとけんかしたのかな? おばあちゃんとなかよくできなかったのかな?」
 ママは、つらい気もちをはき出すように話を続けた。
「いつかむかえに来てくれるって信じてた。だから、学級委員をやったり、児童会の役員になったり、がんばったわ。勉強もできたのよ。でも、卒業式の会場には、お父さんしかいなかった」

「卒業式が終わって教室にもどるとき、保健の先生が、何も言わずに、ママのうでをつかんだの」
「えっ、何が起きたの?」
 わたしは、ふしぎに思った。
「ママ、がんばりすぎると、おなかや頭がいたくなって、よく保健の先生のおせわになってたのよ」
 今のママからは、想像できなかった。
「だから、またママのこと心配してくれてるのかなって思ったんだけど、先生の様子がおかしいの」
「それで」
 わたしは、ママの話に引き込まれていった。
「先生について行くと、校舎のかげに、ママのお母さんがいたの」
「そんなことあり?」
 ドラマみたいな話だと、わたしは思った。
「お母さんは、ママをだきしめて、ただただ泣きながら、『ごめんなさい。ごめんなさい』をくりかえすの。最後は、真正面からママを見て、『大きくなったね』って喜んでくれた。ほんの五分くらいだったけど、ママは、とってもうれしかった」
「腹が立たなかったの?母親だったら、子どもを育てるのが当たり前でしょ!」
 わたしだったら、急に現れてごめんって言われても許せない。
「ママだって、お母さんのこと、ひどい親だと思ったわ。だけど、お母さんをきらいにはなれなかった。お母さんが、ママに会いに来てくれたんだと思ったら、うらむ気もちも、ふっとんじゃった」
「ママ、やさしいね。今、ママのお母さんはどうしてるの?」
 わたしは、ママのかわりに、もんくを言いたい気もちになった。
「わからない。新しい家族と暮らしてるのかなあ?一人ぼっちでいるのかもしれない」
 ママは、急にわたしを見つめて、力強く言った。
「母親になってわかることがいっぱいあるのよ。今なら『産んでくれてありがとう』って素直に思える。お母さんがママを産んでくれたから、りんちゃんに会えたんだもの」

「ママのお母さんは、ママのこと、ずっと見守ってくれているのよ」
 ママは、玄関のかぎを開ける前に、郵便受けの前で立ち止まった。
「区切りのときには、届くのよ」
「何が?」
 ママは、心を決めたように、郵便受けを開けた。そこには、『りんちゃん、卒業おめでとう』と書かれた差出人名のない手作りのカードが入っていた。

しろやま会員 新海美佐保