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2015.11.01


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白い月のおはなし

みんなの童話

 サキとケイが、一緒に学校へ行くのは、久しぶりだった。
「ねぇ、今からすてきなことが見えるの」
 サキはそう言って、ケイに肩をすぼめて見せた。
「すてきなことって、なあに」
 ケイは、何だかわくわくどきどきして聞いた。
「今からお月様が見えるの」
「朝のこんなに明るいときに?」
 学校に行く途中の田んぼの道は、登り坂にさしかかるところから竹やぶになる。曲がりくねった道を登り切ると、空があたり一面ぱっと開ける。
「お・つ・き・さま!」
 サキは呼びかけるように言った。
 サキの指の先に、月が出ていた。
「わぁ、ほんと! 青空に、まっ白な月なんて、す・て・きっ」
 サキは、この青空を見て、胸いっぱいに深呼吸をした。
「雲ひとつない、良い天気」
 ケイも続けて深呼吸をした。
「朝の光で、ひかる月が見えるって、い・い・ね」
「わたし、お月様大好きだもん」
 サキは月に向かって目を細めた。
「月にはね。うさぎがモチをついているって、言うじゃない」
 ケイが、おどけた。
 サキは、学校で習ったと、得意げにはなし始めた。
「月は自分では光れないの。だからうさぎは見えない」
 先生に聞いたことばを続ける。
「月ってね、太陽からの光でひかって見えるのよ」
 サキはいままで、夜の月はよく見ていた。が、『昼間の月』と聞いたとき、急に胸がどきんとした。昼間、同じ空に太陽と月が出る。思っただけでドキドキした。
 そして今坂の上に白い月がある。
 ふたりは、顔を見あわせてにっこりした。
「わたしたち、昼間の太陽と月みたいに、久しぶりに会えたわ」
 ケイが学校を休んでいた間、さみしかったのだと伝えた。
「わたしね。この月をどうしてもケイと一緒に見たいと、思ったの」
と、サキがケイの顔をのぞき込む。
「夜に出る黄色い月も好き。満月なら『わぁ、お月様』って思う。思わず手を合わせちゃうかな」
 サキは拝む仕草をした。
「だからよけいに、昼間はどうって思ったの!」
 サキは、真っ青な空を見上げ、月になった気分で話しだした。
「わたしはね。月は太陽をずっと追いかけていると思う」
 サキは、月の役を演じていた。
「きっと、月は太陽に追いついたらこういうの。『きみのように、わたしも光りたい。その秘密を教えてくださいと』・・・」
「それなら太陽が出ている間、ずっと追いかけるの!」
「でも、太陽は決してふり向かない。だって太陽は、自分だけでぎらぎら輝いているから」
 サキは、太陽を強くにらんでから、西の空の月を見つめた。
「月は、きっとさみしいの」
 サキは、ぼそりとつぶやく。
 ケイは、すぐに答えた。
「すがたが見えないのは、そんなにさみしい? サキちゃんも?」
 サキには、わからなかった。
「でもね。月っていろいろな見方があると思うわ。おとぎ話のうさぎさんは、仲間とわいわいガヤガヤして、けっこうさみしくないよ」
と、ケイは言い放った。
「それに。いま月へは、人類が行けるようになったよ」
 ケイが、月面旅行の話を伝える。
「むかしから、月読みのミコトが、もの思いにひたっているって」
と、神代の言い伝えも語る。
「神話の話になるの?」
 ケイから聞かされて、サキは、『月』って本当にいろんな見方があると思った。ケイと一緒に来て、月へのあこがれが、よりこれから広がると気付いた。
(いっしょっていいなぁ。)
と、サキは、まっ白な月に向かって祈る気持ちで手を合わせた。
 空は一面、真っ青だった。
 月は、白色に、太陽は金色に、光っていた。

しろやま会員 かどまさこ