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2015.09.01


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いちごのさんぽ

みんなの童話

「花音ちゃん、ごはんだよ。おもちゃ、しまってね。」
「はーい。」
 夜、ごはんの前、ママに言われて、花音ちゃんは元気に返事をしました。
「できたよー。」
「あれっ? まだ、あるよ。これは?」
 いちごのパズルがのこっています。
 3ピースパズルなのに、1ピースたりません。それも一番大切な、いちごの赤い実のところです。
「花音ちゃん、一つないよ。どこにやったのかな?」
「しらにゃい。」
 ママが、近くをさがします。
 ソファーの下にもありません。
 机の下にもありません。
 引き出しの中にもありません。
「ないねえ。」
「にゃいねー。」
 花音ちゃんもママのまねをして、一緒にさがします。
 おもちゃのカゴの中にもありません。
「ないねぇ。いちご、どこにいっちゃったんだろう。」
 ママは花音ちゃんを見ながら、小さくため息をつきました。
「・・・さんぽ。」
 花音ちゃんが言いました。
「さんぽ? さんぽねえ。さんぽかぁ。じゃぁ、いちごが帰ってくるまで、ごはんを食べながら、一緒に待っていようね。」
 ママは花音ちゃんの言葉に、くすっと笑って言うと、さがすのをあきらめて、ごはんを食べることにしました。

「ただいまー。」
 しばらくして、パパが会社から帰ってきました。
「おっかえりー。」
 花音ちゃんは大きな声で言うと、パパの声がした玄関へ、かけていきます。
「あれれ? これはなんだ?」
 げた箱を開けたパパが、うすくて小さい板を取り出して言いました。
「あー。いちご。」
 さがしていた、いちごのパズルの1ピースが、げた箱の中から出てきました。
「ママ、いちご、あったよー。」
 花音ちゃんはパパから、いちごのピースを受け取ると、ママのところへ、持っていきました。
「本当? いちご、あってよかったね。どこにあったの?」
 ママは、受け取りながら、花音ちゃんにたずねます。
「へへぇ。」
 花音ちゃんは、笑っているだけです。
「げた箱の中。花音のくつの上に置いてあったけど、なんでだろうね。」
 パパがリビングに入りながら、花音ちゃんのかわりに答えます。
「そっか。いちごちゃん、花音のくつをはいて、おさんぽに行ったのかな?」
 ママが言いました。
「かなー?」
 花音ちゃんも言います。
 二人は顔を見合わせて、意味ありげに笑いました。
「えっ? なに言ってるの?」
 意味がわからないパパは、なかまはずれです。
 首をかしげるパパに、ママが説明します。
「いちごのおさんぽね。なかなか、うまいこというな。」
 パパも感心して言いました。
「いちごちゃん、おさんぽ、楽しかったかな?
 どこに行ってきたんだろうね。」
 パパは花音ちゃんに、たずねます。
「んー? わかんにゃい。」
 花音ちゃん、パパ、ママは、それぞれ、いちごのおさんぽを想像しながら、三人で顔を見合わせて笑いました。
 おさんぽから帰ってきたいちごは、無事に、おもちゃカゴのお家に入りました。

しろやま会員 すぎむら まりこ