広報あぐい

2015.05.01


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ばあちゃんとおかいこさま

みんなの童話

 保育園の朝です。和子先生が、つぶつぶの付いた紙を見せて
「あのね、この紙に付いた、たまごから、おかいこのあかちゃんが生まれます。そのあかちゃん虫を、みんなで育てたいと思います。」
「おれ、おかいこなんてしらん。」
「わたしもしらないわ。」
 愛ちゃんたち子どもは、だれもしりません。和子先生は、まっ白な玉を取りだしました。
「これはね、まゆ、といってね、おかいこが口から細い糸をだして作った玉なのよ。」
 子ども達は、全然わかりません。次にポケットから赤いハンカチを、ぴゅっとだしました。
「このハンカチはね、まゆから作った絹糸で、できてるんだよ。たくさんまゆがとれるとね、きれいな着物もできるわよ。」
 子ども達は、ますますわからない。でも、おかいこがとてもふしぎな虫におもえてきました。
 家に帰った愛ちゃんは、ばあちゃんにおかいこの話をしました。
 するとばあちゃんが、うれしそうに話しはじめました。
「子どものころはな、自分の箱の中でおかいこさまを飼ったよ。」
「へえ、おかいこさまなんだ。」
「そうじゃよ。おかいこさまじゃよ。とれたまゆでな、白いきれいな花を作ってあそんだもんじゃ。なつかしいねえ。もう一度飼ってみたいね。」
「えっ、ばあちゃん、ほんとうに飼ってみたい?」
「ああ。まゆでな、きれいな花かざりを作ってみたいのう。」
 いつもは、うなづくだけのばあちゃんが、いっぱいしゃべったので愛ちゃんはびっくりです。

 次の日の保育園です。
「和子先生、おかいこさまのたまごを、少しください。」
「へえ、愛ちゃんが飼うの。」
「うん、お家でね、私とばあちゃんで飼いたいの。」
「そうなの。いいわ、あげるわよ。」

 帰りの時間に和子先生は、愛ちゃんに紙袋を渡すと、
「はいどうぞ。たまごの付いた紙と、まゆがはいっているからね。」
 愛ちゃんは、家まで走って帰りました。げんかんにとびこむと、ばあちゃんの部屋にむかって、大声でさけびました。
「ばあちゃーん。おみやげだよ。和子先生からすごいおみやげをもらってきたよ。」

「はい、どうぞ。」
 手のひらにのせられたまゆのかたまりをじいっと見つめてたばあちゃん。
「ひゃあー。こりゃあ、まゆ、かな?うん、まゆじゃ、うん、まゆにちがいない。」
 部屋に入ってきたお母さんに、まるで宝物でも見せるように、まゆののった手をさしだしました。

 愛ちゃんが箱の中のたまごを見つづけて、十日目の朝です。
「ばあちゃーん。黒いごみみたいなのが動いてるよー。おかいこさまの赤ちゃんが、生まれたよー。」

 黒い糸くずのようなおかいこさまは、やわらかい桑の葉をたべ、どんどん大きくなります。五日目でたこ糸の太さになり、十日目にはこま回しのひもの太さになりました。毎日三回の桑の葉やりは、ばあちゃんの仕事です。
「たくさん食べなさいよ。」
 ばあちゃんは、いつもおかいこさまに話しかけます。一ヶ月で子どもの人差指の太さになりました。
 おかいこさまは頭を右に左にふって、まゆ作りを始めました。三日目には、まっ白で丈夫なまゆができました。まゆを手にして、ばあちゃんはおおよろこびです。

 ばあちゃんの目が、かがやいています。指先を上手に使って、まゆからまっ白な花を作ります。
 夏のおわり、白い花がいっぱい咲く、美しい木ができました。けいろうの日がもうすぐです。

…だいすきなばあちゃんへ…
 おかいこさまかうのたのしかったね。ばあちゃんたのしそうで、げんきでてたね。あい子がおよめにいくまでげんきでいてほしいから、ずうっとおかいこさまをかいたいです。

あいこ 

しろやま会員 ヒビノトクスケ