2013.07.01
広報あぐい トップ » その他(1)
梅雨が明けると、太陽がぎらぎらと照りはじめた。ぼくらは、海に向かって大きく息を吸いこんだ。
「潮のにおいがする」
「見ろよっ。海の上がきらきらして、光って見えるぞ」
「広い海のどこまでも、太陽がいっぱいふりそそいでいる」
ぼくらは口々に言い合った。
「暑い夏がやってきたな」
ぼくは、空をもういちど見た。空が青い。その中から陽のひかりがきらきらと光っていた。
「空から光のしずくが落ちてくるみたいだ」
と声に出してから、大きく息を吸い込んだ。
よしおは、肩で息を切らし、汗をかいていた。
「夏はきらいだ。暑くて汗が出る」
そう言って、深呼吸をした。
「じつは、よしおだけに話すけど、笑わないでくれるか」
「急になんだよ。あらたまって」
よしおは、すこし不満顔をした。
「前から、太陽ってさ。金の馬車を走らせていると、おもっていた」
「太陽が?」
「日の出から日の入りまで、金の馬車で、きらきら光るひかりの粉を、みんなにふりまいている」
「なんで」
「夏になると、ひかりも陽射しも輝いているように思うからさ」
「お前なら、そう想うだろうな」
ぼくは、砂浜の草を指さした。
「よしお、見てみろよ。草が光って見えるぞ」
「まだ、朝つゆがあるからな」
「きれいだ。ぼくは夏の陽射しがいちばん好きだ」
ぼくは、梅雨が明けたら、よしおといっしょに見ようと、朝の海にやってきた。
「よしおに、もうひとつ見せたいものがある」
ぼくは、そう言ってから、海を背によしおを見た。
「いまから川を上っていこう」
よしおは、ぼくのさそいに、びっくりしてぼくをのぞきこんだ。
「どこまで続いているのかわからないぞ・・」
よしおは不安そうに、口ごもる。
「大好きなところがある。行ってみようぜ」
ぼくは、夏休み前から、よしおと、夏のひかりを探しに行こうと、思っていた。
「そうだな。夏休みだからな」
よしおもうなずいた。
ぼくらは、からだ中に太陽のひかりを、いっぱい浴びていた。
「川のさざなみが、流れに沿ってきらきら光っているのがいいな」
と、ぼくは指差した。
「魚がきらきら光って見えるよ」
また、指さした。
「魚だけじゃないよ。水草だって、沢カニだって、光って見えるよ」
ぼくは、しゃがんで水草をさわってみた。
それから、ぼくらは、川に沿って二人だけの行進をした。
「家の屋根だって光って見える」
と言ってぼくは、ニ、三軒向こうの家を指さした。
「屋根のかわら一枚一枚が、陽にさらされて光っている」
「道を走る車も光って見えるな」
「太陽から、光のしずくが落ちてくるようだな」
「太陽を浴びると、みんなきらきらしている」
そう言って、よしおはぼくの肩に手をかけた。
しばらく行くと、増えていた家もまばらになってきた。川幅も少しずつ、狭くなっていた。
「この橋も渡ろう」
橋のらんかんも光って見えた。
川は小川になり、道のまわりには木が増え、登りにさしかかっていた。
「もうすぐ山道だぞ」
「ぼくの大好きな丘を目指すぞ」
「お前の好きな丘!」
山道は、陽も届かぬほど薄暗く、石がごろごろしていた。
「気を付けろ!」
ぼくはよしおをかばって歩いた。
すると、いっきに森が開けた。
「わぁあ。太陽の光がまぢかだ」
ぼくらは、丘の上で、太陽のひかりをめいっぱい浴びていた。
しろやま会員 かど まさこ
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