広報あぐい

2012.03.01


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たっくんのうそ

〜みんなの童話〜

「ただいま」
「おかえり」
 お母さんがげんかんに行くと、くつがハの字にころがっています。
 タッタッタッ
 かいだんをのぼる音がしました。
「たっくーん、うがいしなさいよ」
「うーん、わかった」
「もう、へんじだけなんだから」
 お母さんは、かいだんをのぼるとドアをたたきました。
「せんたくものは、せんたっきに入れなさいよ。せんたっきに入れてないものは、あらいませんからね。くつもそろえないわよ」
 へやのすみに昨日着たたいそうふくが、丸めておいてありました。
 次の日の朝になりました。
「たくまー、学校におくれるわよ」
 お母さんは、おこっているとたくまとよびます。
「わかっているよー」
 たっくんは、たんすの引き出しのおくまで手を入れて、たいそうふくをさがしました。
「おかしいな。たいそうふくは、二枚あったはずなんだけどな」
 たっくんは、へやのすみに丸めてあるのに気がつきました。
「もう一枚は、ナップサックの中か。あらってないや」
「なにしてるの。早くしなさいよ」
 お母さんは、声がとがっている。
「お母さん、おこってるな」
 たっくんは、朝ごはんをいそいでたべました。げんかんに行くと、くつがハの字にころがっています。
「もぉ、ちこくしそうなのに。お母さんなんでそろえてくれないんだよ」
「たくまー、なにかいったー」
 キッチンからお母さんの声がきこえました。
「なんでもない」
 走って学校につくと、一時間目はたいいくでした。たっくんは、ナップサックからこっそりとたいそうふくをだしました。くしゃくしゃです。
「たくまくん、たいそうふくをあらってないの」
 あいちゃんがききました。たっくんは、あいちゃんのことが大好きでした。
(一番見られたくない子に見られちゃったな)
「お母さんがかぜをひいてねてるから、あらってもらえないんだ」
 たっくんは、うそをついたことで、むねがきゅーんといたくなりました。でも、せんたくしてもらえない本当のことはいえません。
「お母さん、ひどいの?」
「うん、でももうだいじょうぶだよ」
「おだいじにね」
「ありがとう」
 家にかえると、ぬいだくつをそろえ、たいそうふくをせんたっきに入れました。
 夕方、電話がかかってきました。お母さんは、だれかと長話をしています。
 たっくんのおなかがなりました。
「おなかがすいたな」
 たっくんは、一階に下りていきました。キッチンにお母さんはいませんでした。
「お母さん、どこにいるの」
「ここよ」
 お母さんの声は、居間からきこえてきました。
「お母さん、どうしたの」
 お母さんは、ふとんをしいてねていました。
「あら、かぜをひいてねてるのよ。たくまがあいちゃんにいったとおりよ」
「えっ、じゃごはんは?」
 たっくんは、おなかに手をあてながらいいました。
「もちろん、作れないわよ」
「はぁー。お母さん、うそついてごめんなさい」
 ピンポン、ピンポン
 インターホンがなりました。たっくんが、ドアをあけると、あいちゃんが立っていました。
「はい、のりまきとたまごやき。たくまくん、好きでしょ?」
「うん、ありがとう。でも、どうして作ったの」
「たくまくんが、お母さんがびょうきだっていってたからよ。でも、うそだったみたいね。夕方、お母さんが電話したのよ」
「あいちゃん、うそついてごめん」
「いいよ。もううそつかないでね」
 たっくんは、スキップしてかえるあいちゃんを、いつまでもみおくっていました。

しろやま会員 木村 久世