広報 あぐい
2007.11.01
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お手玉たちの冒険

〜みんなの童話〜

 

ぼくは、3才のねこ。1カ月前からまゆちゃんの家に住んでいる。まゆちゃんは、小学2年生だ。
リビングには、お日さまのやわらかい日差しが差し込んでいる。
「よかったわね。あしたは、学校へ行けるわよ」
お母さんが言った。まゆちゃんは、かた足を白い布でぐるぐるまきにされて、その足のかわりにつえを付いていた。
「トイレや教室をいどうする時、どうしよう?」
「先生におねがいしたから、だいじょうぶよ」
まゆちゃんは、不安そうな顔をしている。まゆちゃんは、内気で自分から何かたのむことができないのだ。
「まゆ、買い物に行くわね」
お母さんは、買い物に出かけた。
テーブルの上のインコが、
「ゴハン、ゴハン」
と、言い出した。
「お母さん、わたしのことしんぱいなんだ。チイちゃんにえさあげるのわすれてる!」
まゆちゃんは、そう言うとケージに手を入れて、インコをゆびにのせた。
インコは、ばさばさと、はばたいている。そして、リビングをひとまわりすると、まどから外にとんで行った。
「チイちゃん、もどって来て!お母さんがかわいがっていたのに、どうしよう?」
まゆちゃんは、ないている。
「マユチャン、ナカナイデ。ナニヲシテホシイ?」
ぼくは、まゆちゃんに聞いた。
「おねがい、チイちゃんを助けて」
「ワカッタ」
ぼくは、まゆちゃんの家の表札の住所を見ると、インコがとんで行った方向に走った。
インコは、男の人の手のひらの中にいた。男の人は、インコを家につれてかえると、ケージに入れた。
「ニャー、ニヤー、ニヤー」
ぼくは、インコにまゆちゃんの家の住所を教えた。
ぼくがもどると、まもなくお母さんがかえって来た。
ピンポーン、ピンポーン
インターホンが、なっている。
お母さんが、出ると、男の人がケージを持って立っていた。
「こんばんは。このインコこちらのじゃあないですか?」
と、ケージをさし出した。お母さんは、大声でまゆちゃんをよんだ。
「チイちゃん!」
まゆちゃんが、名前をよぶと、
「オネガイ、タスケテ、ミドリチョウイチノイチ、アリガトウ」
「まあ、チィちゃん、住所言えるようになったのね!」
まゆちゃんもママも、目を丸くして、びっくりしてた。
「オネガイ、タスケテ、アリガトウ」
インコは、くり返し言っている。
(そうだ。助けてって言えばいいんだ。そして、ありがとうって)
まゆちゃんの顔がかがやいた。

次の日の朝、まゆちゃんは、
「お母さん、おくらなくていいよ。きのう仕事休ませちゃったでしょ」
そう言ってランドセルをせおった。
「一人でだいじょうぶなの?」
「だいじょうぶよ」
まゆちゃんは、まつばづえを付いて、
「行ってきまーす」
と、学校に出かけた。ぼくはお母さんのかわりについて行くことにした。
学校についた。まゆちゃんは、げんかんのげたばこの前でこまっている。うわばきがとり出せないのだ。げんかんには、だれもいなかった。くつを出そうとしたとき、
バターン
ぼくのしっぽがぴくっと動いた。まゆちゃんが、ころんだんだ。
「まゆちゃん、どうしたの?」
まゆちゃんと同じぐらいの女の子がかけよった。
「あいちゃん、おねがい、うわばきを取って」
「うん、いいわよ」
あいちゃんは、うわばきを出し、まゆちゃんのくつをしまった。
ぼくは、教室の近くにある木に登って、まゆちゃんのようすを見ていた。ころんだり、机をたおしたりするたびに、しっぽがぴくとした。でも、まゆちゃんは、おねがいとありがとうと言って、えがおだった。

しろやま会員  木村 久世



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