広報 あぐい
2007.03.01
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赤いちゃんちゃんこ

〜みんなの童話〜

 

「さっちゃん、あそぼ」
まい日くるのは、近所に1人で住んでいるおばあさんです。
さっちゃんは3さいになったばかりです。春からは保育園にいくのですが、ママがお仕事にいっているあいだは、ばーばの家で犬のチロが相手です。
さっちゃんはチロがあまりうるさいので、チロの口を両手でつかんでかんだのです。チロの鼻のあたりから、血が出てキャンキャンとなきました。ばーばもびっくりです。
そんな時です。となりのおばあさんの声がして、さっちゃんは外へとび出していきました。
「車庫から出てはだめですよ」
ばーばの声が家の中から聞こえてきました。
さっちゃんも、となりのおばあさんも、道へ出ることはしません。
「さっちゃん、きょうはミニトマト持ってきたよ」
紙につつんで毎日もってくるのです。ミニトマトは冷凍です。
さっちゃんは、となりのおばあさんと、いえにいるばーばがいるので、呼ぶのにこまって、おばあさんに
「おばあさんの、なまえおしえて」と、ききました。
「おおそうか、わしはさっちゃんの名前しっとったが、わしの名前はのう『うめ』うめばあさんだがね」
さっちゃんは「うめちゃん」とよぶことにしました。
うめばあさんは毎日よくあそんでくれるのだが、さっちゃんはきになることがありました。
「うめちゃん、いつもきている赤いふくは、ジャンバ…ベスト?」
と、ききました。うめちゃんは、よごれていて中から白いわたが少し見えるところを、手でなでながら、
「これかね、わしが60さいになったときに、1人むすめが買ってくれた『でんち』だがね」
と、おしえてくれました。
さっちゃんは、わかったようで、わからないようでした。
ばーばは、うめちゃんのことを、もう70さいはすぎているだろうと、思っていました。


「ばーばもでんちある」
さっちゃんに聞かれて、ばーばは電池だと思いました。
「何に入れるの、お人形、電車に」
「ちがうちがう、うめちゃんがきている赤いベストのでんちのこと」
ばーばはすぐにわかりました。
「ばーばは、まだ60さいにならないから赤いちゃんちゃんこないよ」
さっちゃんは、ちゃんちゃんこ、ときいて、くびをかしげました。
うめちゃんは毎日あそびに来てくれるのでばーばはたすかりました。
「さっちゃん、さっちゃん見つけたかーら出ておいで」
うめちゃんが手をたたいて、うたっていました。
何をしているのか気になり、ばーばが外へ出てみると、
「みつかったーので、でてきたよ」
と、門のかげから、スキップをしながら、さっちゃんが手をたたいて、うたいながら出てきました。
ばーばは、おもしろいかくれんぼだと見ていると、
「ばーばも中からでてきたよ」
と、うめちゃんと、さっちゃんと手をたたいてうたいはじめました。
ばーばはてれくさいが、スキップをして、手をたたきました。


さっちゃんは、ほいくえんへ行くようになりました。
うめばあさんを見ることもなくなり、何年もすぎました。
そんなある日のこと、うめばあさんがいつものでんちをきて、ばーばの家にき、
「さっちゃんは大きくなったでしょう。ミニトマトがたくさんあったから、さっちゃんにあげたくて、だいすきだったからね」
と、持ってきてくれました。
うめばあさんは、赤いでんちの、ちゃんちゃんこを着ていました。
さっちゃんは、中学生になっていました。
うめばあさんが、その日から何日かすぎたころ、亡くなったことを、ばーばは知りました。
ばーばも赤いちゃんちゃんこを着るようになりました。
うめばあさんの空き家の庭には今年も梅の花が咲いています。

しろやま会員  中川 かなめ



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