2014.05.01
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 朝です。せんたくきのふたが開いています。
         お父さんがパジャマをぽい。
         ケンちゃんがパジャマとハンカチをぽい。
         シンちゃんがパジャマとくつ下をぽい。
         お母さんがパジャマとタオルをぽい。
         せんたくきの中はいっぱいです。スイッチを入れると、せんたくきは大きく右へ左へとゆれます。重くてしかたがないのか、動きがにぶくてゆっくりです。おまけに回転するたびに、ギイギイガタガタ耳ざわりな音をたてます。もう一つおまけにブウーブウーとうなります。いつもこんなふうにせんたくが始まるのです。
         土曜日もせんたくです。
         お父さんがパジャマとワイシャツをぽい。
         ケンちゃんがパジャマと給食エプロンをぽい。
         シンちゃんがパジャマと体操着をぽい。
         お母さんがパジャマとエプロンをぽい。
        「今日は、ぼくらがお手つだいするよ」
         ケンちゃんが洗剤を入れます。シンちゃんがスイッチのボタンを押します。おやおや、せんたくきは、いつもよりもっと重そうに動き出しました。ギイギイガタガタ、ギイギイガタガタ、ブウーブウー。
        「わあ、どうしたんだ」
        「たいへんだ」
         慌ててケンちゃんがスイッチを切ろうとしました。でも激しく動くので、スイッチを切ることができません。
        「お母さん、たいへん、たいへん」
         二人は、リビングへお母さんを呼びに行きました。
        「そう、せんたくおばさんがおならをしてるのよ。いつものことだからいいの」
         お母さんは驚くでもなく、のんびりテレビを見ています。
         せんたくきは、相変わらずギイギイガタガタ、ギイギイガタガタ、ブウーブウー。
        「せんたくおばさんか…」
        「たしかに」
         ブウー。
        「ブウーだって」
         ブウー。
        「はは、ほんとだ。おならしてる」
         二人は顔を見あわせて大笑い。
        「あははは」
         せんたくおばさんの音にあわせて、歌いながらおしりふり。
        「がんばれギイギイ、がんばれガタガタ。おならブウーブウー」
         なんだかとても愉快です。
         日曜日、今日も休まずせんたくです。お母さんがスイッチのボタンを押しました。あれ、どうしたのでしょう。せんたくきがブウーブウーうなるばかりです。
        「お父さん、ちょっと」
         お母さんが、甲高い声でお父さんを呼びました。
        「たいへん、動かないわ」
         お父さんは、ニ・三度ボタンを押しました。
         つかれた ブウッ。
         やすむよ ブウッ。
         せんたくおばさんは、それっきりギイギイともガタガタともブウーブウーともいわなくなってしまいました。

 「困ったわね」
        「どこが悪いのかな」
        「直るかな」
         みんなは、心配そうにせんたくきをながめました。
        「ずいぶん働いたから、もう引退かな」
         お父さんは、せんたくきのふたをそうっと閉めました。
        「いやだ。せんたくおばさんのおなら聞きたいな」
        「聞きたい、聞きたい」
         ケンちゃんとシンちゃんは、おしりをふって見せました。
         なんだか、静かな日曜日になってしまいました。
        「もしもし、電気屋さんですか。すみません。うちのせんたくき、直してもらえませんか」
         お父さんが電話をしました。
         きっと明日には、直るでしょう。そして、少しは上品で静かなせんたくおばさんにうまれかわるでしょう。
しろやま会員 きくかわけいこ
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