| 高遠なる夢掲げしは遥かなり目覚めてもぐる布団の優しさ | 
          岡本 育与 | 
        
        
          | 冬の庭をうるおす赤き南天のつぶら実揃いて小さく華やぐ | 
          勝  暁子 | 
        
        
          | 聖夜にはネオン輝く我が街に国旗の見られぬ正月寂しき | 
          山口    | 
        
        
          | 七回忌過ぎたる父の形見なるジャンパー着込み冬の畑うつ | 
          竹内 清己 | 
        
        
          | 贈られし手袋つけて歩みゆくを黄泉の国より友見るらんか | 
          渡辺百合子 | 
        
        
          | 明けやらぬ町をゆっくり走りゆくパトカーのゐて安堵に浸る | 
          奥田 貞子 | 
        
        
          | いつの間にか何処かでボタン掛け違う疎遠となりて二年目の冬 | 
          加藤かずみ | 
        
        
          | 初詣で氏神様にこつそりと願いに入れぬ短歌の上達 | 
          橋立 智子 | 
        
        
          | 初春の鼓動といはむ参道に聞く玉砂利の絶へざりし音 | 
          長坂吉余子 | 
        
        
          | 「屋根の上の…」「陽はまた昇る」を唄いゐし森繁久弥は天上の人 | 
          山本きさ子 | 
        
        
          | 変らじと思う生活も何時しらに夫の昼寝の多くなりたり | 
          桃井 昌子 | 
        
        
          | 老人ならば他人の好意は当然と思ふこころの寂しさ哀し | 
          田中 太平 |