夏休み前の今日は、6年生の水泳大会がある日だ。
私はゆううつな気持ちで教室にいると、友だちのいくよが話しかけてきた。
「なみこ、水着を持ってきた?」
「持ってこなかった。いくよは持ってきた?」
「泳げないから、持ってきてない」
「選手の子が休んでいて、水着を持っていると、水泳大会に出場させられるかもしれないからね」
「選手の子が、休んでいなければいいけど」
「選手以外は全員補欠だなんて、だれかが持ってきてるよ」
いくよと話していると、私の気持ちが楽になってきた。
担任の先生が教室に入ってきて、全員に話しだした。
「これから水泳大会だが、出場する子もしない子も、しっかりおうえんするように」
「はーい」
「ところで、補欠の子で水着を持ってきた子は手を上げてください」
補欠の子は泳げない子がほとんどだから、だれも手を上げなかった。
そんなとき、私のおかあさんが、入り口の前に立っていた。急いでおかあさんの所にかけよった。
「何しに来たの」
「げんかんに水着が置いてあったから、届けに来たのよ。水泳がんばりなさい」
おかあさんは、私に水着をわたすと、先生にえしゃくをして帰っていった。
先生が話してきた。
「なみこちゃん、水泳大会に出てくれないか。選手の子がおなかが痛くなったと、言ってきたんだよ」
突然の話に、泣きそうになった。
「私は、息つぎができません。だから10メートルぐらいしか泳げないんです」
「だれも水着を持ってきていないから出てほしいんだ。泳げるところまで泳いであとは歩いてもいいから、最後までがんばってみよう」
私はその言葉に少し安心して大会に出る決心をした。
いよいよ水泳大会が始まった。
どんどん競技が進むと、私のしんぞうの音が早く打ち始めた。
順番が回ってきた。
プールサイドに立つと、クラスみんなのおうえんしている声が聞こえてくる。
「水の中からスタートしてもいいんだからね」
「なみこ、泳げるところまでがんばれよ」
「なみこ、ファイト」
「最後まで、歩いてもいいからね」
みんなの声を聞きながら、飛び込みのできない私は水の中で合図を待った。
「よーい、スタート」
みんな一斉に飛び込む。
私も水の中に顔をつけた。
かべを力いっぱいける。
息を止め、手と足を動かし続けた。
「がんばれ!なみこ」
「すごい!早いぞ」
「1番でゴールだ!」
息が切れそうになり、水から顔を出した。
クラスのみんなから、ため息やどなる声が聞こえてきた。
「あと少しだったのに」
「そこで立つな!」
「早く泳げ!」
いくよの叫ぶ声も聞こえてきた。
「仕方がないでしょ、なみこは息つぎができないんだから、おこらないで、おうえんしなさいよ」
私は大きく息を吸い込み、また水の中に入っていった。
ゴールをした。
最後に顔を上げていた。
おうえん席に戻ると、みんなが大きな拍手で迎えてくれた。
いくよが話してきた。
「あと少しで、1番のゴールだったのに、ざんねんだったね」
「私が1番?」
「15メートルのところで立ち上がったでしょう」
「うん、苦しくなったから」
「そこまでは早かったんだよ」
「え?ほんと!」
「このままだと1番でゴールだって、みんなが大さわぎしてたんだ」
私はうれしくなってきた。
「よし、今年は息つぎが出来るよう、がんばって練習してみよう!」
しろやま会員 杉本ゆみこ |