広報 あぐい
2006.05.01
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正一じいさんの描いた絵

〜みんなの童話〜

 

正一じいさんは絵をかくことが大すきです。

公園のすみに置かれた、こわれかけた古い電車の絵をかいたのが、秋の文化祭で入選しました。

今朝も早くからスケッチブックを持って、ごんげん山の山桜をかこうと車で出かけました。

いつもの散歩道から見えるごんげん山の緑の森の中に、ひときわ目だつ、うすいピンクの山桜が気になっていたのです。

うす暗い竹林をぬけた所に大きな池がありました。池には空が美しくうつっていました。ほっとした正一じいさんは目を見張りました。池のむこうにピンクの山桜が、池にかぶさるように咲いていました。

池の水には緑の草や、ピンクの桜の花がうつって風がふけば、ゆらゆらゆれて、美しい絵のようでした。

正一じいさんは、さっそくイーゼルを立ててかきはじめました。

時間も忘れて絵筆をはしらせました。桜の木には満開のピンクの花を枝いっぱいにかきました。池にうつっている緑の草やピンクの山桜もかきました。

(これでよし)と、自分のかいた絵を見てびっくりしました。かいたはずもない金色のきつねが、桜の木の根元にかわいい目をして、すわっている絵になっていました。

池のむこうの桜の木の根元を見ると、金色のきつねが正一じいさんをかわいい目で見つめるのでした。

正一じいさんはびっくりして、絵筆を池の中へ落してしまいました。

池の水に絵筆からピンクのえのぐが流れ出てきて、美しい絵になりました。

その時でした。木の下にいた金色のきつねがザブンと絵筆をおっかけるように池へ飛び込みました。

正一じいさんは、本当にきつねにだまされたと、あわててスケッチブックをかかえて、走るようにして山を出ましたが、でも道をまちがえたのか車が見えずさがして歩きました。

家に帰って気がつくと、スケッチブックだけ持って絵の道具はみんな山へ忘れてきてしまったのです。

正一じいさんは、山桜の絵と賞をもらった電車の絵を客間に並べてかざりました。

正一じいさんは金色のきつねがふしぎでならなく、毎日のように見ては考えていました。(金色のえのぐも持っていないし)

でも山桜はとても美しくかけているので、自信たっぷりでした。

何日か過ぎて、金色のきつねのことも忘れていた夜のことでした。

ゴトゴトゴトッと、変な音で目をさました正一じいさんは、音のするほうへ行って見ると、広いローカからでした。正一じいさんは、腰がぬけるほどびっくりしました。

音をたててローカを走っているのは、絵にかいた電車で運転をしているのは、金色のきつねだったのです。正一じいさんは、まさかと目をこすりながら、絵をかざっている部屋へ来てまたまたびっくりです。絵の中の電車もなく、山桜の金色のきつねもいませんでした。正一じいさんは、何かおそろしくなり、ふとんをかぶってねました。

朝になって絵を見に行くと、電車も金色のきつねも絵の中にちゃんといました。

その後、絵の中の電車も、山桜の金色のきつねにも変わったことはありませんでした。

正一じいさんも忘れかけたある夜のことでした。

ゴトゴトゴトッと、家の外で音がしているので、正一じいさんは、あわてて外へとびだしました。

ま昼のように明るい月夜の空を、絵の中の電車を金色のきつねが上手に運転をしていて、すいすいと空を泳ぐように、また円をかくようにして、遠くへ行ってしまいました。

正一じいさんは身動きもできずに見つめました。もう帰ってこないだろうと悲しく泣いていました。

金色のきつねは、あの電車が気にいって、楽しく乗って遊んでいるのだろうと、思うことにしました。

正一じいさんは、絵の中がさみしいので、元通り電車の絵をかきました。金色のきつねも山桜の木の下にかわいくかきました。

(あれ……) 正一じいさんが気がつくと、ごんげん山に忘れてきた絵のどうぐが、いつのまにか、きちんと絵のがくの下においてありました。

しろやま会員  中川 かなめ 



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