広報 あぐい
2005.05.01
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みんなの童話

 

みんなの目

しろやま会員 杉村 麻利子

 今日は、写生大会です。けんじたち三年生は、学校の近くの公園へ出かけました。
「公園の中ならどこでもかまいません。自分で場所を決めて絵をかきましょう。出来た人から見せに来てください。」
 先生の話が終わるとみんなは、バラバラとわかれました。
 けんじは、仲良しのひできと公園の中をまわりました。この公園は、けんじやひできの家からは少し遠いので、二人ともこの公園の中をあまりよく知りません。
 公園の真ん中には時計台がありました。入り口から一番遠いところには池があり、横に花だんとベンチがありました。花だんは手入れをする人がいないのか、草がいっぱい生えていました。ベンチもくもの巣がはっていました。
 けんじは、あまり絵をかきたいところではないなぁと思いました。それはみんなも同じ思いなのか、友達はいませんでした。
「なあ、あっちの方に行こう。」
 ひできが指をさした方には遊具がたくさんありました。走っていったら、遊具のまわりには、もう何人かが座ってかき始めていました。ひできは、ジャングルジムを見上げて
「よし決めた。ぼく、ここにするよ。ジャングルジムをかきたい。」
と、しき物を広げて座りました。辺りを見まわしても立っている友達はいません。けんじはあわてて、足を速めました。
 池を回ったところに大きなサクラの木がありました。ソメイヨシノと書かれた木札がかかっていました。枝がそよ風にゆられました。けんじには絵にかいてほしそうに見えました。
 けんじは、この大きな木をかくことに決めました。画用紙をたてにして、エンピツを持つとけんじは木をじっと注意深く見つめました。太い幹からのびている枝には、たくさんの緑色の葉がついて太陽の方を向いていました。花は幹に近い枝に少しだけ、必死にしがみつくように残っています。
 けんじはていねいに下がきをすると、それ以上ていねいに色をぬりました。葉の緑色や幹や枝の茶色は、こくしたり、うすくしたり少しずつ色を変えました。
「なんかすっげぇうまい。本物みたいだ。」
 ひできの声に、けんじはビクッとしました。むちゅうでかいていたので、ひできが近づいてきたことに気がつかなかったのです。ひできはかきあげたジャングルジムの絵を一番にけんじに見せにきたのです。
 けんじは、かきあげた絵をひできといっしょに先生に見せに行きました。
「二人とも上手にかけたわね。」
 けんじは先生にほめられてうれしいと思ったのですが、ひできは
「どうせみんなに同じこと言ってるんだ。」
と、小さい声で言うと、つまらなさそうに地面のすなを小さくけりました。かわいたすなぼこりが小さくたちました。
 学校にもどって給食をたべると、けんじはいつもよりおいしい気がしました。おかわりをしている子がいつもよりもたくさんいて、クラスのみんなも同じなんだなぁとけんじはうれしい気分になりました。
 五時間目は、絵のかんしょう会をしました。けんじは、みんな上手だなぁと思いました。同じ場所でかいていても大きさや色や角度がちがっていました。くふうしたところも人それぞれでした。
 ひできとフミはジャングルジムの絵をかいていました。でもすわった向きがちがったせいか、形もちがっていました。時計台も人によって時間が全然ちがいました。けんじのように木をかいた友達はいませんでした。
「みんな同じ公園に出かけて絵をかいたけれど、すわる場所も絵にかく物もみんなちがいました。同じ場所でも角度がちがったね。出来上がった絵も全員ちがいます。でもみんなとっても上手にかけました。みんな、とてもよいモノを見る目を持っていますね。」
  ひできは、先生また言ってるよ・・・みたいなうんざりした顔をしていたけれど、けんじは公園で先生が言った言葉とは少しちがうように感じました。
 同じところとちがうところ、どっちもみんな持っていて、どっちも大切なことなんだなぁ。そう思ったのです。

 


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