阿久比町 阿久比町
あぐいらしい風景と暮らしづくり
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新美南吉の
物語に出てくる
あぐい町。

地元の作家・新美南吉は、この土地の風景や何気ない暮らしを
愛おしいものとして作品に描いていました。
その風景をどう感じるといいか。おとなり半田市の遠山さんと榊原さんに聞きました。
榊原
南吉はどういう思いで地元の風景を見ていたのでしょうか?
遠山
南吉は若い頃からふるさとの風景をよく書いていました。例えば、阿久比の権現山が舞台だとも言われる「ごんぎつね」は18歳(昭和6年)で書いた作品です。その後、都会に憧れて上京。地元で縛られていく人間関係や古臭さを嫌だなと思っていたようです。でもだんだんと、人間としての本当のたくましさは、ふるさとの人々にあるんじゃないか?と見方が深まってきています。

―どう変わったのでしょうか。

遠山
昭和12年の日記にはこう書かれています。「こんな風景は依然ちっとも自分の感興を起さなかったが、近頃はこんなありふれた身近なものを美しいと思うようになった。ごく平凡な百姓達でもよく見ていれば誰もが書いた事のないような新しい性格をもっており、彼等の会話にはどの詩人もうたわなかったような面白い詩がある」。風景と共に、そこに暮らす人々も、自分にとって大切で書くべき価値があるものだと、南吉は再発見したのでしょう。
榊原
昭和16年の日記には「名古屋から帰って来ると我々の村は新緑の中に埋もれていた。うれしかった」と。
遠山
都会の名古屋に出かけて帰ってくると、自らのふるさとが美しいことに、ふと気が付くわけです。誰もが美しいと自慢するような場所に暮らしていたら、こんな喜びは味わえない。どこにでもある村だと思っていながらも、ふと気付く美しさ、愛おしさ。それを南吉は敏感に感じ取っていたのだと思います。
ごんは、村の小川の堤まで出てきました。
あたりの、すすきの穂には、
まだ雨のしずくが光っていました。
川はいつもは水が少ないのですが、
三日もの雨で、水が、どっとましていました。
ただのときは水につかることのない、
川べりのすすきや、萩の株が、
黄いろくにごった水に横だおしになって、もまれています。
ごんは川下の方へと、ぬかるみみちを歩いていきました。
(『ごん狐』より抜粋)

―そして風景への小さな喜びを、物語の中に描いているんですね。

榊原
阿久比や半田には、南吉が見た風景とほぼ同じものが残っていて、とても貴重ですよね。だから僕らは、新美南吉記念館やその周辺で、ふるさとの風景を未来に繋ぐ活動に力を入れています。
遠山
記念館を作るとき、隣の森も購入して「童話の森」と名付けたんです。「ごんぎつね」に出てくる中山様のお城があったとされる場所なので。その景色を邪魔しないように、記念館は高さを抑えて半地下にし、屋上に芝を植え、緑を調和させました。

―秋には、南吉の生家近くの矢勝川と権現山で「ごんの秋まつり」があり、巡りながら風景を味わえるのが嬉しいです。

榊原
南吉にとって、矢勝川や権現山はどういう存在だったんでしょうか。
遠山
生まれ育ったこの地の風景は、南吉にとって実感をもって書ける大切なもの。さまざまな作品に、半田や阿久比、武豊、常滑、美浜の風景が出てきます。昭和15年の日記では「今まで愛知県南部の自然を平凡で見るべきものなしときめていたが、この頃決してそうでないことが解って来た。美はある」と言っています。その美は信州のようにボリュームのある美ではなく小味な美だけれど、五感を通して感じれば楽しませてくれるのだ、と。多くの人に、南吉をふるさとの作家として感じてもらい、南吉の見てきた風景を自分たちの財産として残したいなと思ってもらえたら嬉しいです。

―権現山からの眺めは特別ですよね。

遠山
権現山や周辺には、今も狐が生息していて、近くには西狐谷池や「東狐谷」「大鰻谷」「西鰻谷」といった地名も。ほぼ昔のままの豊かな自然が残っていて、まさに「ごんぎつね」の世界が息づいているかのよう。その風景は町の宝物です。
新美南吉が描いた景色を歩いてみよう
『ごんきつねの森・権現山周辺散策マップ』
(阿久比町観光協会 刊)
https://aguitown-kanko.com/pamphlet/entry-358.html#prettyPhoto
自分たちの土地から
童話や祭りの音楽などが
生まれるって、本当に豊かなこと。
ちなみに権現山あたりには
今もキツネが住んでるんですよ。
五感で風景を
感じてみましょう
遠山光嗣(とおやまこうじ)
新美南吉記念館 館長。1994年から新美南吉記念館の学芸員として、新美南吉に関する調査研究及び特別展や講座などの運営にあたる。2020年から同館館長。趣味は山歩き。
ふるさとの風景を
未来に繋ごう!
榊原宏(さかきばらひろし)
2015年にNPO法人ごんのふるさとネットワークを設立。「田んぼアートプロジェクト」「蛍の里プロジェクト」「童話の森で。プロジェクト」などで活動。2018年NPO法人半田市観光協会事務局長に就任。
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