ずっと町に残る建物は、阿久比町らしい風景です。
その建物たちの何を残し、どう活かすのか。
古民家活用に詳しい建築家の黒木さんに阿久比町を見てもらいました。
昔からある
―昔からの建物を残して、町づくりに活かすコツを教えてください。
歴史ある建物は、持ち主が残したくても時間とお金が負担、子や孫に渡すのも負担、行政にも予算がないという困難な場合がよくあります。阿久比でも同じ問題に直面することがあるでしょう。その時は少しずつでも「価値ある風景だよね」と声をかけ、周りと連携し、時間をかけて進めるのがコツです。私が関わった事例も5~8年かかっています。予算がある年は進め、ない年はストップ、数年後にまた予算が出て進むことも。それに最初は反対意見が挙がっても、改築プランを提案し、何年も交流するうちに、周囲の意識や見方が変わることがあるんです。
町中に残る知多木綿を織っていた機織り工場跡。
これを上手に活かしながら阿久比町らしい緩やかな産業観光ができたらいいですね。
これを上手に活かしながら阿久比町らしい緩やかな産業観光ができたらいいですね。
―どんなプランがよいのでしょう?
今の時代に合う使い勝手と集まりやすさのある改築プランにしたいですね。時には、大事な部分だけを保存して解体し、組み直すなど。改築は、単にかっこよくて便利になることがゴールではありません。最近の一般的な新築物件は100年もちませんが、もともと100年もつ建物は構造体が違うので、次の100年ももたせられる。その価値が明確な点でも、手をかけ受け継ぐ価値があるのです。
ちょっとした土地の起伏の中に暮らしがある。
いろんな屋根並みが歩きながらいろいろと見えるのも阿久比町らしい風景。
いろんな屋根並みが歩きながらいろいろと見えるのも阿久比町らしい風景。
機織りの産地だった町の物語を残された工場跡をカフェ、ショップとして活用し伝える。
(矢高のd news aichi agui)
(矢高のd news aichi agui)
―阿久比の風景と建物には、どんな価値がありますか?
この町の地形は、山、川、丘がたくさんあり、小さな起伏の連続。ちょっとずつ目線と景色が変化するのが面白い。建物では、ノコギリ屋根や歴史ある黒板塀のエリアが、他の町にはそうそうない資源です。「古いけど、この町らしい風景を構成する建物」が壊されて阿久比らしさが台無しになる前に、ふつうのベッドタウンにならないプランを考えてみませんか?
阿久比町にはノコギリ屋根の
機織り工場跡がたくさん
残っています。これこそ、
未来の阿久比町らしさを
作りだす財産だと思います。
機織り工場跡がたくさん
残っています。これこそ、
未来の阿久比町らしさを
作りだす財産だと思います。


阿久比町らしい建物を、
いい形で次の世代へ
いい形で次の世代へ


- 黒木裕行(くろきひろゆき)
- 株式会社ルーフスケイプ代表 一級建築士。京都市文化財マネージャー(建造物)京都市立芸術大学 美術学部 環境デザイン専攻 非常勤講師。建築設計事務所での約20年の設計業務を経て2008年より日本各地の古民家活用を主としたまちづくり事業に携わる。
何気ない個性を
「町らしさ」
として伝え、
若返りをつくる。
町の活気をどうやって作っていくのか。
次にお話を聞いたのは富山県の小さな町に移住した建築家の山川さん。
町が元気になる秘訣を伺いました。
次にお話を聞いたのは富山県の小さな町に移住した建築家の山川さん。
町が元気になる秘訣を伺いました。
―なぜ小さな町に移住したのですか。
その町の風景がとても美しく、守りたいと思ったからです。場所は、富山県南砺市の井波という町。ちなみに僕の生まれは富山県の富山市で、東京や上海で仕事をしていました。
虫供養の行事とそこに参加する子どもたち。
―移住後、町はどう元気に変わっていったのでしょうか。
井波の人口は約8,000人。阿久比町は28,000人くらいなので、かなり少ないです。町には井波彫刻という伝統工芸があり、小京都のような雰囲気なのですが、ほとんど人が歩いていません。金沢や高山といった観光地に挟まれ、旅行客は立ち寄るけれど泊まらない。そもそも宿がない。そこで「職人に弟子入りできる宿」を一棟建てました。そうしたら共感する若者がどんどん増えて、珈琲や食、 お土産の需要が増え、僕たちも飲食店やショップをオープン。いま全部で11施設です。
今でもつづく町民参加の運動会は町が元気である証拠。
つづくための工夫こそ阿久比町らしさ。
つづくための工夫こそ阿久比町らしさ。
阿久比町らしい建物を活用したカフェに通っているうちに移住を決めた元田真樹さん。
(ベーリングプラント阿久比)
(ベーリングプラント阿久比)
―「その町らしさを活かした施設」を作ったのがよかったんですね。
他にも大事にしているのは、町全体を活かすこと。宿の宿泊料は、一部を職人に還元したり、食事や買い物は町内のスポットを案内したり。地元の事業者さんと健やかな関係を築き、「地域の経済をまわし、地域の稼ぎを増やす」ことを目指して。でも観光が主になると暮らしがダメになる。暮らしだけだと、外の人が来ない。だから「暮らしと観光のあいだ」を考えています。それも共感を呼び、人が増えました。
―阿久比が若返るには?
阿久比も、若者によるマルシェやお店を応援したり、お祭り好きな子が参加する地元の祭りを応援したりして、一緒に楽しめば、町の元気さが続きますよ。
町じゅうで日々行われる
元気な様子をみんなで
伝えあうことも
大切な阿久比町らしさづくり。
元気な様子をみんなで
伝えあうことも
大切な阿久比町らしさづくり。


50年後、100年後も
若者に選ばれる町に
若者に選ばれる町に


- 山川智嗣(やまかわともつぐ)
- 木彫刻のまち富山県井波にて職人と新たな価値を創造するコラレアルチザンジャパンを運営(代表取締役)。職人に弟子入りできる宿Bed and Craft(2024年ミシュランキー認定)をプロデュース。同年Forbes Japan により世界を動かす45歳以下のカルチャープレナー30 組に選出。

