名古屋から名鉄の赤い電車で、河和行きに乗り、外の景色を眺めていると、巽ケ丘駅を過ぎたあたりで、パーっと視界が開ける瞬間がある。町並みから、空と緑が広がる風景へ。線路沿いの川が町の中心を南北に流れ、左右には田園、その先の低い丘沿いに、民家や団地、段々畑、寺社が目に映る。どこか懐かしくて、町民にとっては、「ふるさとに帰ってきた」と、実感する瞬間でもある。阿久比駅で下車して東側に出ると、未舗装の道沿いに田んぼと土手がある。電線がなく、空との境がくっきりと美しい。そこにはすでに「あぐいらしい風景」が広がっていて、時間がゆっくり進むように感じる。
進学や就職で一度町を離れた若い人が、数年後に再び戻ってくる。あるいは、いつかは戻ってきたいと思っている。この町では珍しいことではないと聞き、少し意外に思った。でも、ここには心和む風景だけでなく、人の穏やかさや地域の絆、暮らしの心地よさもあるという。その源となる風景を巡りたくなった。
帰ってきたくなるまち
便利さと自然・歴史・文化がともに
この町は大きく4つのエリアで分かれている。それが東部・英比・草木・南部で、小学校区にもなっている。でも時代を遡ると江戸時代は「阿久比谷16か村」と呼ばれていた。約24平方㎞のコンパクトな町のなかに、入り組んだ谷や丘のある地形だから、16もの集落が生まれたのだろうか。その名残は町民参加の運動会での区分けや、約900年続く行事「阿久比谷虫供養」、また町民の地元観に残っている。町を歩くと寺社仏閣も多く、徳川家康の生母・於大の方や、菅原道真の子孫とのゆかりもわかり、驚いた。繊維業で栄えた時代の知多木綿の工場、黒板塀の通り、酒蔵、さらに新美南吉が描いた童話のような風景に入り込める。光るススキが続く土手、昔のままの姿を残すため池、獣道のような生活道、ひっそりと佇む祠、眺めのよい秘密の高台など、自然の豊かさも日常のすぐそばに。交通面は、名古屋の中心部から特急電車で約25分、車なら有料道路で約30分。知多半島道路「阿久比IC」から中部国際空港(セントレア)までは約20分と、整った環境だ。スーパーやコンビニ、医療・介護施設や薬局が点在し、映画館や商業施設もある。「子育て環境としても不安が全くない」という声も多い。
地域行事などを通じて、大人も子どももお互いの顔を覚え、その後も緩やかに関わり合っているという。保育施設は十分な数があり、小学校は4つ。中学校と県立高校も置かれ、朝夕は子どもたちが行き交い、挨拶や、たわいない会話が聞こえてくる。
地域行事などを通じて、大人も子どももお互いの顔を覚え、その後も緩やかに関わり合っているという。保育施設は十分な数があり、小学校は4つ。中学校と県立高校も置かれ、朝夕は子どもたちが行き交い、挨拶や、たわいない会話が聞こえてくる。
人の温かさがにじむ風景
今回、4つのエリアを、10日間で16名の地元の人たちと巡った。教えてもらった「あぐいらしい風景」からは、その地区らしさも感じられ、歩くたびに奥深さを知った。また毎回のように案内人の顔見知りに出会い(散歩中の町長にも!)、自然に近況報告が始まるので、世代を問わず「町全体が家族みたい」という声にも納得。そんな町の人たちが大切にしている風景の一部を、ぜひ紹介していきたい。
























