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うにして、黒い影がスタスタと上がってくるのです。「寅さんと房さんかね。」「へえ、そうですが……。」「寝たお地蔵様をここまでお送りしてきまし「おい、銈けさあ。この暑いさ中に、よう精が出るのう……。」「ああ、これも金もうけだで、その日暮らしのわしらじゃ、暑いのなんのと言っとれんわ。なあに、昼前の十時までに山砂を七回か八回も運べば、今日はそれでおしまいだあな。この暑さじゃあ、それから後、昼過ぎまで働いたんじゃ、いくらがんじょうなおれでも、目を回してぶっ倒れちゃうわい。それにだいいち、牛が使いものにならなくなってしまうからのう。こいつは、えらい働きもんで、ほれ、見てくれ。山盛もりのトロッコをいっぺんに三台も引っぱれる。こいつをまいらせちゃうと、333333333いろ 33 ── ど  た。受け取ってくだされ。」そう言うと、その黒い影は、寅さんの背にズッシリと重い物を背負わせ、それからスタスタと靄の向こう側へ消えていってしまいました。靄の先をすかしておりました。そして、黙ったまま、引き返しました。すが、それでも途中でなん度も交代をしました。んの背中のお地蔵様が急に重くなって、もう一歩も歩けなくなってしまったのです。背負っていない寅さんまでが歩けなくなったのも不思議でした。泉寺へお行きになりたいに違いない人はうなずき合うと、左の道をとり始めておりました。元も子ものうなるでのう……。」られた銈太郎さんは、椋岡の鉄道道路で立ち止まって、語しかけられたをよいしおに、ちょっと息を入れました。汚れたジュバンは、もうベッタリと赤銅色の体に貼はりついており、背中に幌ほを着けた黒牛は、鼻の穴を大きく動かせています。「この村へも、とうとう電車が通ることになった。なにしろ、汽車は東、電車は西で、ここだけ鉄道がねえ。こんなばかなことはねえと言い合っとったが……、長生きはしてみるもんだて。」「うん、全くだなあ……。なんでもな、太田川という駅から河和まで、七里余も線路を引いていくという大変な工事だ。その上、この辺は、低い田んぼへずうっと土を盛らにゃあならねえ。だが、おかげでわしにも仕事ができたというわけだがの。」二人はぽかんと口を開けたまま、しばらく背中のお地蔵様は思いのほか軽かったのでところが、平泉寺の角かまで来たとき、房さこれは、お地蔵様は平昭和5年の夏、知り合いの老人に声をかけ。二第四十話ニンニク 食わんからダメ145144

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