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神葭信仰オコリ病いょうょうもったいなくも御み葭よ天て王の様のお着きじゃ。粗相があってはなりませぬぞ。早う拝みなされ。」何が何だか分からないまま、ひえっと人々はその場へひれ伏しました。「これはな、津つ島しの牛ご頭ず天て王の様のご神体じゃ。あのお社では、毎年6月16日にご神体の葦を取り替えて、去年のものは川へお流しになる。これを『みよし様』と申し上げるのじゃが、『みよし様』が流れ着かれた所では、岸辺に笹竹を立ててお祀まりをし、ご神体を鎮守へお移しせねばならぬ。」……それにしても、この浦深く『みよし様』がご入来とは、わしはまだ一度も聞いたことがない。これは、今年の豊年満作疑いなしということに違いない……。「何にしても、忙しいことになってきたぞよ。さあ、皆の衆。村中へ触れて、お祭りの支度じゃ、支度じゃ……。」「おおい、伝で六ろよ。いい若いもんがいつまで寝とるんか。お天て道と様が真上へ来とるというに……。」隣の甚じ兵べ衛えさは、雨戸をドンドンとたたいても返事がないので、勝手知った気安さで、ガタビシ板戸を引き開けて中に入り込みます。どこの家もそうですが、特にこの家の中は、土間に農具やら、織りかけの夜や業ぎの薦こにわら束などが散らかって、足の踏み場もありません。一間まきりしかない、むっとするような板の間には、せんべい布団をすっぽりと引きかぶって一人の男が寝ています。「……それにしても、独り者にはうじが湧わく33けも んうんくん つまんうか333くき んんらぎしつ   しんう な大騒ぎになってしまいました。た所を、今では「名み師し」と呼ぶのだそうです。というが、なんとまあ、このざまは目も当てられねえ。しかも、この陽気に布団を頭からかぶって寝たりして、体が腐っちまうじゃねえか……。」ぶつぶつ言いながら、枕もとにあぐらをかくと、垢あのついた布団の端を乱暴にめくります。「ああ、甚兵衛さか……。」「なさけねえ声出して、いったい、どうしたのだえ。」「ああ、夕べのう、薦を編んどったら、急に寒けがしてきて、そのまんま寝ちまっただが、夜中に体中がガタガタ震えてきて、苦しうて一晩中うなっとった。朝方になってやっとおさまってきたが、起きようと思ってもフラフラしてどうにもならん。今日は野の良らへは出られそうもない……。」「そりゃあ、えらい目にあったのう。以前、いとこの太た助すがなったことがあるが、家のじ3さあ、大変です。村中がひっくり返るよう ─さて、この「みよし様」が流れ着かれるように、葦を神聖なものや神体としてあがめる信仰習俗は、津島神社をはじめとして、全国各地に多く、昔は熱田神宮にもあった。本話は、それにちなむ地名伝承で、こうした例は、県内の各地に多く残っている。当町には、承し安あ3年勧か請じと社記で伝える卯之山の津島神社をはじめ、白沢・草木・植大に境内社として津島社があり、板山の熊野神社には御芳社も存し、禊みと祓はをもって悪あ疫えを払おうとする信仰が盛んである。ょうょうらえそぎ阿久比谷の始祖と言われる英比麿が一ツ葉の葦あ原上を群舞する白し鷺さに吉兆を感じて、白沢と名づけこの地に天神を祀まったという伝説に見られ第二十七話神様そら豆嫌い9998─ 卯之山・津島神社 ─

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