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わずょう う らみ  ゅく いうんゃんい─ き33わおた 篠つく雨ょう戒さんが必死なら村人たちも必死でした。一日、二日、三日、……。次第にやせおとろえていく円戒和お尚し。あせりに似た表情に揺れ動く村人たち……。 ─そして、七日目の昼すぎ、その日は特に今までにない、どんよりとした蒸むし暑さでしたが、突然、川底から蛙かの鳴き声が聞こえてきたのです。村人たちは一瞬、空そ耳みだったかといぶかしげに顔を見合わせました。─。その時です。突然、南の方の丘陵の上に、ムクムクと黒雲が湧わき上がり、それがたちまち三方へのし上がるように広がってくると、ポツリ、ポツリと、白く輝く尾を長く引いた大きな雨粒が落ち出します。「あっ」と、村人たちが目をすえたときには、白い砂塵をはね上げつつ、どっと銀色の雨の幕が襲ってきて、円戒の打ち振る鈴の音がかき消されてしまいました。中の身、未熟な取り扱いで神威に逆らい、戒めのとおりになったら申しわけないからと言うのです。─「わしものう、円戒さんにそうまで言われては、これといったよい思案も浮かばず、しおしおと帰ってくるより仕方がなかった……。」必死の頼みに負けました。手で白木の祭壇と桟さ敷じが造られ、周囲にしめ縄が張りめぐらされました。戒さんが大だ般は若に経きの転読を始めました。印を結び、金こ剛ご鈴れを打ち振り、声をふりしぼって経を読ど誦じしては、円戒さんは正面の短い柱に掛けられた神面に水を注いでゆきます。円「ワァーッ……。」人々は、悲鳴に似た叫び声をあげながら、互いに抱き合い、手を振り上げて走り回り、ようやくねずみ色の水を流し始めた川の中に身を投とじて、両手にすくい上げたり、中には水底をころげ回ったりする者もおりました。しかし、興昌寺の円戒さんは、村人たちの ─興昌寺の前の大お川か端ばには、村人たちの村人たちがかたずを飲んで見守る中で、円ギラギラと照りつける太陽の下で、一心に9190

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