ゅうょう楞り厳ご寺じに再出発を誓ってこの城へ嫁ぎ、幸せけのゅうっと夫お俊勝のために、わが身を代えてと祈っていょう存ぞ念ねを聞かせよ。」な岡崎の広ひ忠たとは違い、無口でずっしりした感じでしたが、誠実に傷心の新妻をいたわる優しい心配りを見せ、お大の方が岡崎から抱いて連れ帰った乳ち飲のみ子の姫も、この城へ引き取るよう計らってくれました。お大の方は、俊勝の広くたくましい胸がいつでも自分を強「殿のお心に甘えて、平ひ野の久き蔵ぞどの竹た内う久き六ろどのに、熱田への心づけを届けさせていただきました。その上の重ねてのわがままにござりまするが、どうか、わが身に代えての命乞いに清洲へ参ること、お許しくださりませ。」「おお、よくぞ申された。わしも同道して参ろう。急ぎ支度をいたせ。」「はいっ……。」「奥方様っ……。奥方様っ……。」庭先でひそやかではあったが、せき込んで呼ぶ声に、お大の方は筆持つ手を止めました。刈谷から持ってきた持仏の前には、ろうそくの火がかすかにゆらぎ、香の青い煙が一条、ゆるやかに立ち上がっていました。その前にしつらえた経机に向かって、お大の方は、このごろ日課としている血書の写経を進めているく抱き取ってくれる思いで、身も心も、城主の妻として新しく生きようとしていました。いては全身で語りかけてくる信の俊との姿に、またしても岡崎へ残してきた竹千代の面影を見てしまったのです。をつかみそうに見えた彼女でしたが、それだけに、風雲急を告げる岡崎の孤児が思われ、か細い肩を落として、涙にむせぶのでした。 を迎えておりました。「お方かよ。一大事となりそうじゃ。急使によれば、熱田に捕われの竹千代どのを岡崎衆が奪い返そうとする動きがあり、織お田だ信の秀ひどのは、いかいご立腹とのこと。竹千代どのの身にもしものことがあってはならぬ。そなたのところでした。白磁の小皿には、小あき豆の汁で溶かれた彼女の指からしぼった鮮血が、残り少なくたまっていました。一字三礼、阿あ弥み陀だ経きを写しながら、薄幸の子、岡崎の竹千代と、たのです。その写経も後あ少しです。「……その声は久蔵どのか。何事でありますか。」城は戦雲をはらんで、ぴいんと張り詰めた空気に包まれていました。「奥方様、殿よりの内々の御お下げ知ちでござる。ただ今、岡崎の元も康やさまがお見えになられました。」「ええっ、竹千代が……。」 すとんと会 くいんんらうちくず333ぶでた× ねん いとぶず だろぶしお大の方は、思わず立ち上がっていました。でに三十三歳。三児二女に恵まれ、夫に後顧の憂いを与えない、立派な城主の妻となっところが、新しい母になつき、まつわりつ兄水み野の信の元もの命めに抗し切れず、去年刈谷の× × × × 平和な阿久比の里は、黄こ金が波打つ実りの秋時は、永え禄ろ3年5月17日の昼下がり、坂部坂部城主久松俊勝に添って、お大の方はす再 6564
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