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くさゅん陀ださまの御画像がありますでの、それをご本けたのだ。おまえら城下の者どもも、その一味同類だぞ。まだ首がつながっているだけでも幸せだと思え。」家財はことごとくひっくり返され、両手に獲物をかかえた雑兵たちの高笑いが響きます。「おやっ、これはなんだ。木箱の中に大切そうにしまってあるぞ……。うむ、仏の画像か。だいぶ古びてはおるが、値打ちがありそうだ。やい、じじい、これも、もらってゆくぞ。」「あ、もし。それだけは困ります。大切な虫供養のご本尊さまでござりまする。今年はこの村が当番でお預かりした大切なもの。これを失いましては、村々に申しわけがなりませぬ。どうか、これだけは……。」しかし、必死にすがりつく老人はたちまち払いのけられ、奪い返そうとした若者は、血煙をあげてくずれ折れます。─まるで悪夢のような日が過ぎ去りました。「これは、これは、皆の衆。おそろいで、何事でござるかの……。」「はい、突然のおじゃまで、申しわけありませぬ。実は、虫供養のことでご相談に上がりました。長い間世の中が乱れて、本当に生きた心地もせなんだが、やっと泰平を迎えることができました。それにつけても、絶えて久しい虫供養が気がかりでござります。」「また始めたら、よろしかろうが……。」「はい。……でも、戦いで大切なご本尊さまを失ってしまい、虫供養ができませぬ……。」住職の円え舜しさまは、しばらくじっと考えておられましたが、一つうなずき、ひざをポンとたたくと、身を乗り出して言われました。「おお、よいことがござる。寺に山越え阿あ弥み尊さまにして始められたら、いかがじゃな。」人々は大喜びで、できるだけ早く復活しようと、手を取り合って約束しました。「のう、困ったことになった。大切な如来さまを奪われてしもうた……。」「新しいご領主の家来衆がなされたこと、いくらお願いに出ても、知らぬと、そっけない返事が返ってくるだけだ……。」「ああ、仏さまはどこにおいでだろうか。もったいないことだ。」「悲しいことだ。もう虫供養のお勤めはできぬ……。」肩を落としてつぶやくのでした。燃えさかる大阪城に死んだ翌々年の、元げ和な3(一六一七)年の秋のことでした。数人が集まってきました。のことでした。城下へ出向いて、熱田へさしかかっておりました。「おや、あなたは草木のお方ではありませんか。」「ああ、これはお珍しい。以前、連歌の会でお世話になりましたお方ですね。お久しぶりでございますな。」「よい所でお目にかかりました。住まいが、ほんの近くです。ぜひお立ち寄りくだされ。」「はい、それでは、お言葉に甘えて……。」をたしなむ大商人だけあって、調度もおくゆかしく、あるじの人柄をしのばせます。  う  ん んう  ん  どみでよみり  のかおりが漂っていました。信心深い仁右衛門さんは、早速手を合わせます。阿久比谷は暗く沈み、人々は、がっくりと大阪夏の陣が終わり、淀よ君ぎが豊と臣と秀ひ頼よと共に角岡村の平泉寺に、阿久比谷村々の代表十 ─それから六十年ほどたった延え宝ぽのころ草木村の仁に右え衛も門んさんは、所用で名古屋のどっしりとした構えの奥へ通されると、歌客間の隣は仏間で、立派な仏壇に、よい香こ⑷ 仏様お帰り4544

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