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ものょうぶうくん  な ょん  ううょう藍らも黒煙を上げています。くさざらぬぞ。もの言わぬ鳥・獣け・果ては、名もなき虫けらや草木にまでも及びまする。……」説教が終わっても、村人たちは、なかなかその場を去りませんでした。感動が人々を縛りつけて放はさないのです。「のう、もうじきお念仏の日がやってくるだ暗がりの奥で、人々は震えながら息をひそめておりました。すでに女子供は遠く深い山の奥に隠しており、男ばかりが残っています。坂部の阿久比城は、激しい戦いの末、幼い主君二人と城兵を呑のんだまま、真っ赤な炎ほをあげて薄墨色の空をこがし、近くの寺々の伽が非情な戦いのならわしです。勝ち誇った寄せ手の兵士たちが城下の家々を襲い始めていました。目を血走らせた雑ぞ兵ひたちは、悪あ鬼きのように家々の戸口を蹴け破やり、めぼしい金品を強奪してゆきます。─「こらっ、百姓ども。なんだ、米はこれだけしかないのか。隠すとためにならんぞ。」「もし、そのお米は、わしらの大切な食いつなぎでござります。明日からその日に困りますだ。どうか少しは残してくださりませ。」「何を、たわけたことを申すか。ここの領主は、逆賊として、あれあのとおりご成敗を受天て正しう5(一五七七)年、秋の初め、ここ阿久のおが、お上人さまは、鳥・獣や虫けらにも、そのお功徳を施せと申された。わしは、今度のお念仏からそうやった方がいいと思うのだがのう……。」「おお、ええことを言わしゃった。おれも、さっき、それを考えとった。」「それじゃあ、どうだえ、お寺の和お尚しさんに頼んで、虫や生きものも供く養よするんだということが分かるようなもんを書いてもらうことにするとしようか……。」古来念仏の道場には大塔と婆ばが建てられるようになってゆき、いつしか虫供養と呼びなされるようになりました。比谷の家々は戸をびっしりと締め切り、そのこうして、真盛上人の教えで、阿久比谷の⑶ 天正の法難4342─ 尾張名所図会より ─

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