すみ珠ずを繰りながら、しとしとと、重そうに足を御ご家け人にであった。新に田た義よ貞さが鎌倉へ攻め入る直前、主君から だしっ くん音うかきい みんにゃう んっらま ゅくきく 列 うんいょうもてかど春霞かに煙る草木の里から出た異様な人々の行列が、西の郷のはずれにある小高い丘へ通じる坂道を、とぼとぼとたどっていました。迷故三界城……などと書かれた四本の小さなのぼり旗に囲まれた白装束の老人を中心に、 数十人の村人たちが、口々に念仏を唱え、数じ運んでおりました。丘の上の、最近掘られたばかりと思われる深い穴の前に一行こが到着すると、若い二人の村人に支えられた行ぎ者じの袖にすがりついて、に揺れ動き、国く民たは塗と炭たの苦しみの連続でござったが、このごろやっと穏やかな世が到来しそうに思われる。わしも、三年がほど前、表おの街道をはずれて、この里へ足を踏み入れ申したのだが、こうして皆の衆に大勢送ってもらい、往生を遂げられるとは、まことにこの上ない喜びでござる。だが、わしがここまで思いつめたのは、今初めて明かし申すが、深い訳があるのでござる……。」「……実を申せば、わしは、執権・北ほ条じ高た時とさまに仕え、妹が奥方にあげられた由緒ある若君を託されたわしは、主君を見限ったと偽り、若君をわが子として育てておりもうしたが、新田方の催促きつく、いずれ露見と覚悟木も食じ・穀こ断だち・水断ちと続く長い苦行の末鎌か倉くの執し権けさまが討たれた後、打ち続く南ょう一人の老婆が涙声で申します。「伍ご大だ院いさま。今日はどうしてもお別れせねばなりませんのか……。」「おお、これは、喜き蔵ぞさのおばばか。ようその痛む足でここまで送ってくれたのう。先日も話したとおり、わしの決心は変わらぬ。いよいよお別れじゃよ……。」の行者は、ゆっくりと穴の前にあぐらをかき、静かに村人たちを見渡します。人々も、かれの言葉を一言も聞きもらすまいと、半円を描くようににじり寄って座りました。とは思われず、伍大院の声は、隅までよく通りました。「さて、皆の衆。今まで長い間まことにお世話になり申した。北二つの帝みをいただいた争いに国中が大揺れして、かわいいわが子に因果を含めて、若君として敵陣へ送りもうした。わが子の死を平然と見ねばならぬ……、わしの痛恨、お察しくだされ……。わが子の菩ぼ提だを弔うため、六部となって廻国流浪の旅に出たのじゃが、街道筋では、『この人非人』『ろくでなし』とののしられ、子供にさえ石を投げられ、つばを吐はきかけられもうした。そこで、山に隠れ、野に伏して、ひたすら念仏苦行を続け、ご縁があってこの里まで流れてきたが、皆の衆の一方ならぬ手厚いもてなしに、こここそ現身往生の勝地と知りもうした。の出現を待ち、また、長くこの里の守りとなろうと覚悟を決めたこのわしを、どうか快く送ってくだされ……。」伍大院と呼ばれる鶴のようにやせた白装束たとえ主君の御ためとは言え、涙をのんで若君は無事に隠しおおせて、その後わしは末世の世にわが身を埋めて、はるかな弥み勒ろ葬 第九話伍大丘 の 鉦 の 院の墓3736
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