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ょうう33しずうんうい いゅいんつん 石上の  うろととしゃく「えらいこっちゃぞ。都から西国へかけて、大いくさじゃそうな……。」「おお。この間も、街道を埋めつくして、大勢のいくさ人が上がっていったそうな。」「このあたり、その争いに巻き込まれねばよいが……。」「まったくだのう……。いくさで弱りはてるのは、いつもわしら百姓ばかりじゃ。」「……ところで、あそこの道端で、旅のお坊さまは、何をしてござるのだろうえ。」時は寿じ永え元(一一八二)年の8月、源平の「おお、これは、この里の方々でござるか。わたしは済さ乗じ坊ぼと申し、長らく比叡のお山で修行をいたし、また、京の吉よ水みで法ほ然ね上人さまの教えを受けた者でござるが、心願のことがあって、この三年ほど諸国を巡り、今日この里へ足を踏み入れたばかりでござるが、思わぬことが起き申した……。」「思わぬこととは、それはなにごとでござりまするか。」「実は、これに捧ほ持じしてまいり申したみ仏が急に重うなられて、どうしても動かせてくださらぬ。それゆえ、路傍の石の上に安置してただお念仏を申し、お供養をいたしておりましたのじゃ。」「お坊さまは、なにして、この仏さまを背負って、この六十余州を巡っておられますのじゃ……。」「はい、このみ仏は、わが国に三体だけの尊いみ仏にまします。不思議なご縁がござって、里さ人びたちの目に、路傍で一心に念仏を続ける争いに葦あのようにおののく阿久比谷、矢口の一人の旅僧の姿が映りました。暑の汗にまみれ、長い旅路の果てを思わせました。てきたと思われる厨ず子しが安置され、それに向かって、両手をひしと合わせつつ、一心に念仏を続けています……。第に念ね仏ぶ三ざ昧まの姿に打たれて、いつしかその後に寄り添い、声を合わせる者が一人二人と増えてゆきました。「あの……もし、お坊さま。いかがなされましたか。」旅僧の念仏が一くぎりしたとき、一人の老人が、手を合わせたまま、おずおずと進み出て尋ねました。しわ深く刻まれた赤し銅ど色いの顔は、砂塵と残彼の前の草むらの石上には、大切に背負っけげんそうに集まってきた里人たちは、次厨子第七話重くなった仏2928

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