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ゅう竜り、西に大道あるを白び虎こ、南にくぼ地あるをゃく朱す雀じ、北に丘陵あるを玄げ武ぶ、これ吉相なり。』 ゃっゅっに、じろじろと見回したり、貧相なあごひげをしごいたりしていました。父に伴われた英比麿は、勅使の前に進んで、深く腰をかがめて一礼しました。しかし、その愛くるしい動作も、勅使に一層さげずみの感情を増させたらしく、童子の顔をのぞき込み、問いかけるように口ずさみました。「をさな心にかがみこそすれ」ところが英比麿は、即座に、よく通る声で、その上かの句をつけたのです。「英え比びの子は生まるるより親に似て」勅使の顔に、アッというろうばいが流れ、そして、それは、次第に感動の色に変わってゆきました。「良いお子をお持ちなされた。さすが菅か家けのお血筋じゃ。」「いや、まだ幼うござる。何とぞ、ご無礼はお許しを……。」「なんの、麿は、心をいたく動かされ申した。で、里さ長おの家には大勢の人が集まっているようだね。」「ええ、蟹が田だ川の堤がくずれて、ご先祖さまの二子塚が傷みそうだと、手だてを相談しているらしいのよ。」─「あ、これはこれは、英比麿さま。お聞き及びのとおりでございますが、なんぞ、よい手だてはないものでしょうか。」「この間読んだ本の中に、『東に流水あるを青せと書いてあった。これに従って、いま北を流れている蟹田川を、塚の東を流れるように変えたらよい。」人々は、英比麿の学識の深さに驚嘆しました。─さて、青年期を迎えた英比麿は、いとこの阿古女と愛し合うようになりました。そして二人の恋が里人たちのうわさに上り出したこ促そがありましたが、里人の願いで、英比麿はこの郡は、智恵多しと書く。このお子は、まことにこの郡にふさわしい。帝へよい土み産げができ申した。」り、内だ裏りに出し仕しせよ、違い背ははならぬと勅命が伝えられ、里長の厚いもてなしと数多くの贈物を受けて、勅使は帰って行きました。この里から離れませんでした。都の父も、行く行くはこの荘を治めさせようと考えられたか、書籍を送り続けられました。「英比麿さまあ、またお勉強ですの。」「ああ、阿あ古こ女めか。今、父上からいただいた漢詩集を読んでいるところなのだよ。ところろには、二人は結婚の約束をしていました。に新しい館を造ってもらい、新妻阿古女の方かと移り住みました。甘い二人だけの日々が続きます……。ところがこのごろ、英比麿が無口になり、妻の問いかけにも言葉を濁すようになりました。何か、重大なことで、思いなやんでいるに違いない。阿古女は独り胸を痛ませました。から、都の父君の便りを盗み読みして、真っ青になりました。それには、必ず都へ出てくること、一族の姫君をめあわせたい考えであることなどが書かれていたのです……。  か ん─こい んたさと んく 3333み  い⑶蟹田川─  いい3333やでした。すでにお腹なの中には、英比麿の子が宿っていました。……しかし、自分は、里長の一族とは言え、都の父君の許しを受けぬ身、英比麿が退出したあと、すみやかに都へ帰都に召し出された父からは、度々上京の催さ英比麿は、里長の許しを得て、入江の対岸阿久比の里に、また春が帰ってきました。そして、ある日、阿古女は、夫の文ふ箱ば阿古女の方は、目の前が真っ暗になる思い1514

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