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 ざみ  う⑵えびの子か ろる  まかたで教えてくださる。お子が生まれたことだし、長くとどまってくださるとよいがのう……。」阿久比の里は、入江へ寄せる細さ波なや、取り巻く丸い丘のたたずまいのように、いつも穏やかで、笑顔に満ちており、その中で英比麿は、お館や祖父の里長をはじめ、人々の慈愛を一身に受けて、愛くるしく、丸々と育ってゆきました。英比麿が五歳の春を迎えた時のことです。都から勅使が下げ向こされる旨の知らせが届きました。国の守からの時ならぬ早馬の知らせに、里人たちはうろたえ、出迎えやら供応の支度などで走り回ることになりました。が、お館だけは、下向の真意を察しているらしく、今までのように気軽に見回りに出ることもな珠たのようなお子がお生まれなさったそうな。」さな田い舎なの建物のしつらえを軽べつするかのよう今、まかり越した。どうか、よろしく頼み入る。」 え、身分の高い都人から、思いがけないていねいな言葉をかけられて、里長をはじめ、里人一同、感激して、地に深くひれ伏すのでした。去っていました。「おおい、聞いたかや。里長さまのお屋敷で、「おお、そのことよ。お館やさまはたいへんお喜びだし、初めてお祖じ父いさまとなられた里長さまは、笑いで口がしまらぬ有様だとか……。」「なんでも、お館さまは、里長さまが丸ま氏の直系ゆえ、荘の名と合わせて「英え比び麿ま」さまの幼お名なをつけられたと聞いた。」「のう、お館さまは、すっかりこの地になじまれ、わしらの困りごとや訴えを、だれもが納得するよう裁いてくださるし、読み書きまく、ひきしまった顔で、家に閉じこもりがちになりました。た勅使は、いかにも都の権威を一身に背負ってきたような気負いを見せて上座へ通ると、たとえ一時は流されてこられたお方とは言そして、またたく間に、二年の歳月が過ぎ旅の日焼けで、一層突とがり気味の顔となっ1312

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