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2014.03.01


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ミミズのおんがえし

〜みんなの童話〜

 ミミズのおや子がこんな話をしていました。
「ねえ母さん、きょうはここの家の庭がにぎやかだねえ」
「そうね、なかまたちはしずかだねえ」
 チョキチョキ・シャキシャキ
 チョキチョキ・シャキシャキ
 朝早くから、この家に 庭師 にわし さんたちが、庭木のせんていにきていました。
「ねえ、ダンゴ虫さん、あなたもふまれないようになさいね」
「そうさ、ミミズのおまえも土の上におしりをだすなよ」
「わかってますよ。わたしには目がないし、足もないので気をつけますよ」
 庭師さんのハサミの音がひびきます。
 庭師さんの草をかる音がひびきます。
「あ、やっとしずかになったぞ」
 庭の小さな生きものたちが、いっせいにうごき出しました。
 ミミズたちも、土の中ではたらきはじめました。土をくだいて空気や水がとおりやすい土をつくります。
 むかしから地面の下の一ばんのはたらきものなのです。
「あれ、母さんがいないぞ」
「さっきまでいたのに。きっと、かれ草やはっぱをあなにいっぱいひっぱりこんでいるんだよ」
 そのころミミズの母さんは、庭師さんの けい トラックの 荷台 にだい に、かり終えた草や木といっしょにのせられていくところでした。
 車にエンジンがかかると、荷台から、土の小さなかたまりといっしょにミミズの母さんは、コンクリートの道におちたのです。
「あ、どうしよう」
 目のないミミズの母さんは、土のにおいをさがしました。草のにおいをさがしました。
 けれどもどうすることも、すすむこともできません。からだは、だんだん弱っていきました。
「もう子どもたちとも会えないか」そう思ったときでした。
 この家の女の子が、学校から帰ってきました。
「あ、ミミズだわ。こんなに弱って、かわいそうに」
 女の子は、いそいでミミズをひろい上げると、手のひらにのせて
「死なないでね。死なないでね」
 女の子は、ミミズがとてもかわいそうでした。
 女の子の目から大つぶのなみだが、ミミズのからだにおちました。
「ねえ、生きてね。おねがいよ。お庭にもどしてあげるから」
 しあわせなことにミミズの母さんは、もとの庭の土の中にもどることができたのです。

「母さん。母さん。どうしたの」
「母さん、こんなからだになって」
 ミミズの子どもたちは、なきながら母さんのからだをつつむようにして、じっとよくなるのをまちました。
 どのくらいたったでしょう。
 ミミズの母さんが、くねくねとからだをうごかしたのです。
「あ、母さんが・・・」
「母さん!」
 すえっ子のミミズが、母さんにまきつきました。
「ありがとう。みんなありがとう。もうすこしで、ごみといっしょにすてられるとこだったの。道におちた母さんをたすけてくれたのはこの家の女の子なの。やさしいなみだがわたしにいのちをくれたの。うれしかったわ」
「母さん、ほんとによかったね」
「そうだ、みんなで力を合わせてこの家の庭をよい庭にしよう」
 ミミズたちは、うねうね、くねくねと土をたがやし、ふんを出しはたらきました。
 春になりました。
 この家の庭の花だんに、色とりどりの花がさきました。
「わーきれい」
 女の子の声が地面の下のミミズたちの耳にもとどきました。
「よかったね、母さん」
「そうね、おんがえしができたわね」
 ミミズのおや子も大よろこびでした。

しろやま会員 やの かづこ