広報あぐい

2011.09.01


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おじいさんのロッキングチェア

〜みんなの童話〜

「もういいかい」
「まあだだょー」
 きょうも、けんちゃんの家のにわは、ともだちげんな声でにぎやかだった。
「もういいよー」
けんちゃんはぜんそくりょくで、うらのものおきの前まで走っていった。
 すると、きいたことのあるうたが中からかすかにきこえた気がした。
 そっと戸をあけた。日の光が小屋の中にさしこんだ。
(あ、おじいさんのロッキングチェアだ)
 この春、くなったおじいさんのいすが目にはいった。
(こんなところにしまわれていたんだ)
 いそいで近よると、いすには子ねずみが6ひきねむっていた。
「このいす、ぼくのおじいさんのだぞ」
 すると、ねずみの母さんがとび出してきて
「ごめんなさい、この子たちにひるねをさせていたのです」
「ぼくのおじいさんのいすだよ」
「はい、わかっています」
 ねずみの母さんは、赤ちゃんねずみをいすからおろした。
 けんちゃんは、ロッキングチェアのもたれや、ひじかけを、やさしくさすった。
 おじいさんとあそんだ日のことが、いっぱいうかんできた。
「あ、ぼくがかじったきずだ」
「あのー こっちのきずは、私の子ねずみがかじったものです。ごめんね。でも、いすの足のここのひびわれは…」
「それはね、それはね」
けんちゃんははげしくいった。
「ぼくが、ぼくがこわしたんだ」

 きょねんの秋、けんちゃんと兄ちゃんは、おじいさんのロッキングチェアのとりあいでけんかになった。
「じゃんけんにしようよ」
と、いう兄ちゃんをつきたおし、ロッキングチェアをりょうでおもいきりたおした。
 そのとたん、ロッキングチェアは、えんがわからふみ石にあたって庭にちた。
 いすの足は大きくひびわれてしまった。
 兄ちゃんのあたまにもこぶができた。
「わしも子どものころは、ようおこったり、けんかもしたなあ。だけど人をきずつけたり、らんぼうはいかんぞ、なあけんちゃん!兄ちゃんにあやまったか、なかようせんとな」
 おじいさんのことを、けんちゃんはけっしてわすれてはいなかった。そして、やさしくかたをだいてくれたことも。

「ねえ、どうしてぼくのことを知ってるの?」
 すると、ねずみの母さんは、
「私は、おもてんじょううらに住んでいました。だからけんちゃんやお兄ちゃんのことも知っています。おじいさんのやさしいもりうたもおぼえました。ロッキングチェアが物置小屋にしまわれたのを知ってここにうつってきたのです。
 このいすは、私にとっても、おじいさんへの思い出のつまったものです」
(みんな、おじいさんがすきだったんだ)
 けんちゃんは、ひびのはいったいすの足を気づかいながら、目をとじて、やさしくゆらしてみた。
「さっきはごめんね。つぎに赤ちゃんねずみにかわってあげるよ」
「まあ!ありがとう。ありがとう」
 ねずみの母さんは、お礼をいいおじいさんの作った子守歌を歌いはじめた。
  ねむれねむれ いとし子よ
  ねむれねむれ すこやかに
  ねむれねむれ ゆめのくに
 いつのまにか子守歌は、おじいさんの声にかわっていた。
 けんちゃんはおじいさんにだかれ、むねかおをうずめてゆれていた。
「けんちゃん、けんちゃん」
とおくでさけんでいる声がした。
(そうだ、ぼくかくれんぼしてたんだ。おじいさんのいすでねむってしまったんだ)
 けんちゃんは、あわててとび出した。
「みんな、ごめんね、ぼくのことしんぱいしてくれて。またあしたあそぼうね」
 友達は手をふりかえっていった。
 けんちゃんは物置小屋へ走った。そして、けた。ロッキングチェアは、ゆうぐれの中で、ぼんやりとしか見えなかった。

しろやま会員  やのかづこ