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2011.03.01


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あぐいぶらり旅
〜建造物を見る(縣神社「脇障子」)〜

シリーズ 阿久比を歩く 143




脇障子の左部分


縣神社本殿

 

立春、バレンタインデーを過ぎ、少しずつ春の気配を感じる時季となってきた。花粉の飛び散る量が昨年と比べものにならないほど多いらしい。春を先取りする私の目の周りはすでにかゆい。そんな春の到来を感じながら、福住地区の縣神社あがたじんじゃを友人と2人で訪ね、本殿の脇障子わきしょうじを見た。

縣神社は小高い丘の上に建つ。昨年の10月、20年に1度の遷宮奉祝祭が行われた。その際に新調された長い石の階段の白さがまぶしい。しっかりと靴の泥を払い、階段を上る。

この神社は尾張開拓の祖神とされる大縣主命おおあがたぬしのみことなどをまつる福住地区の氏神うじがみ。「二ノ宮大明神」として明暦4(1658)年創建と記録が残る。社宝は“かわずの面”と呼ばれる「翁の面」。雨乞いの神事に使われ、恵みの雨をもたらしたという。

拝殿正面につり下げられた直径30cmほどの鈴を鳴らし、頭を下げ、奥の本殿へと回る。大正15年に改築された本殿はずっしりと重厚感がある。木鼻きばな虹梁こうりょうなどに装飾されたきめ細かな彫刻が質感を高める。

階段上の左右に分かれるえんの先は、「脇障子」と呼ばれる聞きなれない建具。行き止まりの場所に置かれ、ついたてのようにさえぎるものを意味する。

脇障子にも、左右ともに「獅子」の彫刻が施される。作者は不詳。

〈獅子の子落とし〉自分の子に苦難の道を歩ませて鍛えることの例え。彫刻は、まさにその場面が描写される。滝に落ちた子獅子をがけの上から親獅子が眺める。

「僕はこのような場面手塚治虫さんのアニメ『新ジャングル大帝』で見ましたよ」と友人。「僕は『巨人の星』だったかなあ」。子どものころに見たアニメの話で盛り上がる。

背景には渦巻き状のものが散らばる。「あの渦何だろうね?」と私が首をかしげる。「唐獅子と言えば、牡丹ぼたんじゃないですか」。「なるほど!」。〈獅子に牡丹〉。取り合わせのよいものを例えるときに使う表現だ。友人の言葉から、渦は雲にも見えるが「牡丹」の花にも見える。

「障子がこんな場所で使われるのはなぜだろう?」。「脇が甘いと、神様が逃げちゃうからじゃあないですか」。友人の説得力のある「脇障子」の推測にうなずいた。