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2011.02.01


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あぐいぶらり旅
〜建造物を見る(観音寺)〜

シリーズ 阿久比を歩く 141




雪が残る観音寺の屋根


軒に張られた千社札

高岡地区の観音寺を訪ねた。前日降った雪が寺の屋根に残り、解け出した雪は軒の先端を伝わり、滴となって地面に落ちる。「うぁ」。雪解け水が私の首筋を伝わる。思わぬ冷たさに自然と声が上がる。

観音寺は知多四国八十八カ所霊場の十七番札所。現在の本堂は大正13年から昭和元年まで3年かけて造られたもので、木造瓦葺方形造ほうぎょうづくり。方形造は「宝形造」とも書き、4つの三角形の面で構成され、頂上の一点が中央に集まる屋根形式。

屋根中央には下の段から、「卍」の文様が浮き出た露盤ろばん伏鉢ふくばち宝珠ほうじゅと呼ばれる「やきもの」が積み上げられる。仏教用語で「宝珠」は、あらゆる願いをかなえる不思議な珠を意味する。屋根形式は「宝形造」、頂上には「宝珠」と、この寺には何かすごい“お宝”が眠っていそうだ。

「去年の夏、家族でディズニーシーへ遊びに行ったとき、アラビアンナイトの世界を演出した、『アラビアンコースト』という場所があって、宮殿の上にタマネギのような宝珠が乗っていたのを思い出したよ」と私が友人に話す。「宮殿は金銀財宝がたくさんあるところですよね」。友人の瞳が輝く。

住職は不在だったが、留守番をする女性に寺の「宝物」について尋ねてみた。

50年に一度しか開帳しない本尊の「十一面観音菩薩」。欄間などに施される彫常ほりつね作の彫刻。元禄2(1689)年の表記がある「鰐口わにぐち(軒下につるし、参拝者が白布の綱で打ち鳴らす仏具。現在は寺内で保管)」の3つを挙げてくれた。

「彫刻以外は、毎日お寺にいる私たちでも見ることができませんから、とても貴重なものだと思います」と、女性がほほ笑む。

本堂正面で上を見ると軒には、所々参拝に来たことを示す「千社札せんじゃふだ」が張られる。名前や住所が記され、「小地谷」「大宮」など他県の地名が見られる。現在は巡礼回数で「納め札」の色が決められ、千社札を建物へ張る代わりに、その札が「納札箱」に入れられる。

白装束に身を包んだ老夫婦が境内を訪れた。2人は納経帳への朱印を済ませた後、赤札(巡礼20回)に住所・名前・願いごとを書き、箱に納めて仲良く「般若心経」を唱える。未来永劫に残したい素朴な光景だ。「うぁ」。雪解けの滴が友人の首筋に伝わったようだ。突然の大きな声が少しだけ2人の世界を邪魔してしまった。軽く頭を下げて寺を後にした。