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2011.01.15


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あぐいぶらり旅
〜建造物を見る(弘誓院A)〜

シリーズ 阿久比を歩く 140




山門の奥に見えるのが新本堂


庫裏の太い横柱

2011年の干支「卯」にちなみ、うさぎと縁の深い、卯之山地区の「兎養山とようざん弘誓院ぐぜいいん」を訪れる。老住職に旧本堂に取り付けられていた古い瓦を紹介される。

(前号からの続き)

「耳が取れてしまっていますが、実は“ウサギ”なんですよ」と老住職。鳥衾とりぶすまにウサギが装飾されているのは珍しいとのこと。

鳥が羽を休めていく場所に、ウサギ。かわいらしい表情のウサギに鳥たちも癒されたことだろう。

「新しくなった本堂の屋根にもウサギの鳥衾を残したいと考えましたが、建築基準の関係でできませんでした。珍しいものですので、何らかの形で残せればと思っています」

鬼瓦と鳥衾を見た後は、庫裏くりを案内される。庫裏とは、寺院の台所や居間を意味する場所。玄関を開けると、すぐ目に飛び込んできたのが、むき出しの黒色に塗られた太い横柱。頑丈な造りであることがうかがえる。

「大きな声では言えませんが天井には、隠し部屋があります」と老住職が小声で教えてくれる。戦国時代、「落ち武者」が寺に駆け込んできたという。そのとき、隠し部屋と呼ばれる場所に落ち武者は逃げ込んだ。「歩くと天井が落ちてくる仕掛けの場所もあってね…」と話が続く。庫裏の中にはまだまだ、人に知らされていない“からくり”がありそうだ。

抹茶をごちそうになる。茶道などまったく知らない二人。緊張しながらも両手で茶碗を持ち、急いで抹茶を流し込む。「自由に飲んでもらえばいいですよ」。お庫裏さんの優しい一言に緊張が解ける。

弘誓院の本尊は「阿弥陀如来」。焼き討ちなど繰り返されたが、本尊は戦火を逃れることができた。現在阿弥陀堂に安置される。

「本尊修復の際、阿弥陀如来像の胎内が空洞になっていたことが確認できました。ただ、ウサギが運んできたとされる一寸七分(約5cm)の“仏”は見つかりませんでした。おなかのすいた野ウサギがエサと勘違いしてどこかへ運んでしまったのかなあ」と、老住職の目尻が下がる。

2人でウサギのように軽やかに参道を下り、弘誓院を後にした。今年は卯年。どこかで“幻の仏さん”をくわえた野ウサギに出会えることを期待したい。