広報 あぐい
2010.07.01
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あぐいぶらり旅 
〜建造物を見る(常舞台)〜

シリーズ 阿久比を歩く 127

 



大古根八幡神社の“常舞台”



“回り舞台”

「あの家の瓦、いいですよ。外壁もなかなかです」。

町内で残る古い建造物を巡ることにした。念願の一軒家を手に入れた友人の視点が、最近“建物”に興味を引かれていたのがきっかけとなった。

神をまつるために楽器や舞を奉納する場所が神楽殿。その神楽殿のことを“常舞台じょうぶたい”と呼ぶ。以前から地区の神社に行くと、目にしていた「常舞台」。気になっていた常舞台を訪ねることにした。

阿久比町誌によれば、町内13の神社に現存する。「はじめは、神への奉仕の場として設けられていた神楽殿は、次第に豊作の喜びを表現する常舞台へと変化し、老若男女が神と一緒になって祝い、喜びを分かちあうようになった」と解説される。

「回り舞台」のある、大古根八幡神社の常舞台を見に出掛けた。

「お城のような屋根ですね。入母屋造りですよ」と友人が言う。「さすが目の付けどころが違うね。そんな専門用語よく知ってるねえ」。「家を建てる前に勉強しましたから」。

どっしりと構えた建物は、昭和2年の建造。木造瓦葺で屋根の形は入母屋造り。正面の大きな扉と外壁の板張りは、くぎで補修された部分と虫に食べられた穴が目立ち、建物の古さを物語る。

知多半島では珍しい「回り舞台」を備える。歌舞伎の世界では、床を大きく円形に切り抜き、円板を回転させて劇の場面を換える舞台装置として使われる。

大空襲で消失した名古屋大須の芸場の舞台をまねて造られた。昭和37年まで祭礼の余興で、大阪や名古屋などから芝居役者を呼び、村芝居が行われていた記録が残る。現在では、春の祭礼のときに正面の扉が開かれ、舞台では囃子はやしの奉納が行われる。

大古根地区の方に頼み、中を見せてもらった。床の上に立つとミシミシ音がする。見ることはできなかったが、舞台下は120cmの深さがある。床下で梶棒かじぼうをかついで舞台を回すのが本来の仕組みのようだ。

「足の力で青年団の人が舞台を回しているのを見たよ。『四谷怪談』がよかったなあ」。「子どものころ、役者の風呂たきをするのが、私たちの仕事だったよ」。年配の男性たちが思い出を語ってくれた。

「回り舞台の床下のことを、『奈落』と言うらしいけど君知ってた?床下は暗くて、『奈落の底』にたとえたらしいよ」と私が友人に問い掛ける。「意外に物知りですね」。「少し予習してきたからね」と自慢げに答え、八幡神社を後にした。



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