広報 あぐい
2010.06.01
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あぐいぶらり旅 
〜石造物を巡る(植・大古根コース 6)〜

シリーズ 阿久比を歩く 125

 



子安観音像が安置される“お堂”



優しい表情の“子安観音像”

「子どもが授かる縁起のいい、観音さんですよ」と、80歳になる元気な男性が笑顔で話す。

植大地区の神明社南側の道路を東の方向へ歩いた場所に小さなお堂があり、その中に「子安観音像」が安置される。

お堂の扉は閉められ、格子の向こうには、子どもを抱いて座る高さ50cmほどの観音像が見える。顔は優しく、ずきんをかぶる。石造巡りで多くの「子安観音像」を見てきたが、初めて見る姿だ。

男性は子安観音像にまつわる話を聞かせてくれた。

大正時代に通りがかりの行者が「屋敷の中で仏をまつっていないか」と民家を尋ねてきた。実際に観音像は民家の敷地内でまつられていた。「力のある仏だから、屋敷の外にお堂を造り、まつらないと、“家”が絶えてしまいますよ」と行者に言われ、観音像を門前へ移す。お堂は乙川の宮大工が無償で建立。後にその“家”は分家ができるようになったという。観音像はどんな理由で造られたかは不明。

結婚しても子どもに恵まれず、半ばあきらめかけていた女性が、観音像に“お百度参り”をしたら男の子が授かったというエピソードも紹介してくれた。

8月9日は観音の供養日。毎年知らないうちに「線香」が1箱届けられた。お百度参りがご利益で授かった子が結婚して、その妻となった人物が線香の届け主。「今の幸せがあるのは主人と一緒になれたから。もし主人がこの世に生まれていなかったら…」。嫁ぎ先の義母から聞いた「願掛け」の話に感銘して、線香を毎年供養日の人知れぬ時間に、観音像の前へ届けた。

先述した行者が訪れた民家は、話をしてくれた男性の実家。「子安観音像」の逸話を伝え聞いているため、奥さんを亡くされてからも“観音さん”の世話を続ける。

「もうそろそろ、生まれるころだよねえ」。第一子誕生を待ちわびる友人に、私が話し掛ける。隣で聞いていた男性が「子安観音さんの前で偶然だね。おめでとう。奥さんによろしくね」と優しく声を掛ける。「今日は、観音さんに無事子どもが生まれるように、しっかりとお願いしようと思います」。友人の言葉に力が入っていた。



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